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後藤田を師とした村山富市

 意外なケースでは、村山富市首相にとっての後藤田正晴がいる。村山は後藤田について、「所属する政党は違っても私にとって後藤田さんは、単に先輩というより、師として仰ぐ大変心強い存在でした」(『私の後藤田正晴』、中曽根康弘/村山富市/岡本行夫ほか、講談社、2007年)と語っている。阪神・淡路大震災の翌日、後藤田は村山に「地震は天災だが、これからは人災になる。しっかりやってくれ」と言い、村山はそれで災害対応へと性根を据えた。憲法、日米安保、海外派兵などについても、後藤田は様々なアドバイスをしている。ブレーンは、必ずしもイデオロギー的立場を同じくする必要はないのである。

震災被災者を見舞う村山首相 Ⓒ共同通信社

(6)は、周辺が身ぎれいか、政治資金の台帳は正確に記されているか、生活の幅にブレはないかなどを常に点検しなければならないということだ。いまや政治家は、企業・個人からの政治資金と使途、秘書給与、事務所維持費、選挙経費など、政治活動にどれだけ金がかかるかを一人ひとり明確にすべきである。それは私たちが政治家を見るときの重要な判断材料になるだろう。

(7)は、テレビの討論番組に出るべきだというような話ではない。有権者からの問いに誠実に答え、何度でも丹念に説明をすべきだ。これは政治家の初歩的条件とも言える。

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(8)は、「真正保守」には必ず求められる態度である。漸次の改革を行うためには、その前提として、伝統への敬意が必要なのだ。そこから、もし捨てるべきものがあれば捨て、保守すべきは保守する政治が始まる。典故、先例を深く知ることは、庶民の暮らしに分け入り、その哀歓に触れることでもある。

(9)についてだが、本を読まない人には、いくつか特徴がある。話のなかで形容詞を多用する。物事を断定して、その理由や思考のプロセスを説明しない。耳学問だから見識に深みがない。読書をしない人間は、「真正保守」の政治家にはなれないと言い切っていいであろう。

(10)であるが、氷山は9分の1だけが海面上に姿を出し、9分の8は海面下にある。身につけた知性、感性、人格の奥行きが、表に現れることを忘れてはならない。

 この十カ条を私に書かせたのは、歴史の教訓を政治の現場に伝えなければならないという危機感であるとも言える。私たちが近現代史から学んだ教訓と知恵が失われていくことになっては、先達に申し訳が立たないと思うのである。

本記事の全文は、「文藝春秋」2024年10月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています(保阪正康「原爆忌で考えた政治家十カ条」)。

文藝春秋

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