昭和史研究家の保阪正康氏は、次期首相に選ばれるべき人物は「真正保守」の政治家という。では、真正保守の政治家の定義とは何か? 保阪氏の考える「“真正保守”政治家10カ条」を、このたび初公開する。

次期首相に求められる条件とは? ©文藝春秋

◆◆◆

自民と立憲民主の結集再編

 もはや自民党も、立憲民主党も、改憲と護憲、自由主義と社会主義などのイデオロギーでは区分できず、それぞれの独自性よりも類縁性のほうが高い時代に入っている。両党の大幅な再編成によって、新しい改革勢力が生み出されることより他に、日本政治の更新はないのではないか。

 その結集軸こそ、日々の暮らしを大切にし、漸次の改革を志向する「真正保守」の立場であると私は考えている。現在の超党派の「湛山議連」などが意義ある触媒の役割を果たすことを望みたい。

ADVERTISEMENT

 石橋湛山と言えば、憲法との関わりで、興味深い論点がある。湛山は、「憲法九条凍結論」という独自な立場を打ち出していたのだ。この論は湛山自身も充分に展開し切れていないし、踏み込んで語ることで何らかの圧力を招き寄せることを嫌った節もある。その言わんとすることは、日本国憲法が描く国際的な平和社会は理想であるし、それを私たちは目指さなければならないが、いまの現実がそうでない以上、九条は凍結して、現実に対応し得る法的枠組みをつくるべきだ、との考え方ではないだろうか。未来に平和な世界をつくり得たときに、私たちは初めて九条を解凍し、それを本当の指針として持つことになるだろう、と。

石橋湛山 ©文藝春秋

 緊急事態条項を創設しようとするような動向を注視しながら、私たちは、かつての「真正保守」の政治家たちが叡智を傾けた憲法論を吟味し直すべきなのである。

 現在の政治の陥没状況は、意識的にせよ、無意識にせよ、それを維持してしまっている国民の責任ということにもなる。つまり、「真正保守」の再興とは、私たちの政治意識、歴史意識の問い直しがなければ実現できないのだ。

 この連載のために私は、「真正保守」政治家十カ条を熟考してみた。以前、「首相の七条件」を発表したが、今回はそもそも政治家であるための条件を問うものだ。初公開ということになる。政治家は心に留めて陶冶に努めてほしいし、国民が政治家を見極め、政治状況を認識するうえで参考になればと思う。