1ページ目から読む
2/3ページ目

 自民党総裁選、立憲民主党代表選においても、当然、この十カ条を満たす政治家が指導者に選ばれるべきであると私は考えている。

(1)常に歴史を読め。
(2)師たる政治家を持て。
(3)甘言、巧言は敵とせよ。
(4)誤りから学べ。
(5)良きブレーンを持て。
(6)清廉の徳を持て。
(7)討論、対話を厭うな。
(8)典故、先例に通じよ。
(9)読書に勝る良薬はない。
(10)氷山のごとき人格たれ。

保阪正康氏 ©文藝春秋

(1)は、国外のウクライナ戦争にせよ、ガザ戦争にせよ、アメリカ大統領選にせよ、国内の裏金事件にせよ、時代がどう動くかについて、歴史と同時代史を組み合わせ、過去、現在、未来を読み抜く目を持て、との意味になる。

ADVERTISEMENT

(2)は、誰を理想の政治家と見て、そこから何を学ぶのかという問いでもある。原敬の政治力と、歴史に自らを刻む意志。田中角栄の庶民性と、対米従属から脱却する志向。浅沼稲次郎の労働者性と、質素な生活。……直接の師でも、歴史上の存在でもいいが、自分が目標とする政治家とその方向性を、自らの政治の一つの模範として持つべきであろう。

(3)は、甘い褒め言葉、巧みな誘導術などの話法を遠ざけ、誠実な語り口を身につけるべきということだ。甘言、巧言は、結局のところ有権者からの信頼を失うし、汚職にもつながっていくものだ。

(4)であるが、誤りを教訓とする思考、行動は政治家の必須条件である。過去の戦争に始まり、政治の誤りを徹底して分析することが大切であろう。かつて日本の政治はなぜ戦争を選択したのか? 軍の暴走とは何か? それを学ぼうとしない政治家は、政治家である資格がない。

池田政権における伊藤昌哉

(5)は、政治家の不安に寄り添い、有効な助言をするブレーンをいかに周囲に置けるかということになる。

 たとえば伊藤昌哉である。かつて伊藤は宏池会の舞台裏の立役者と言うべき人物だった。池田勇人首相の首席秘書官を務め、池田の政敵である浅沼稲次郎社会党委員長が暗殺されたとき、語り草となるような追悼演説の原稿を書いて、それを読み上げた池田の存在感を大きくした。その後、伊藤は大平正芳首相のブレーンにもなり、その権力者の孤独を全面的に受け止めて、大平は折に触れて伊藤の判断を仰いだ。