1775年の開窯から2025年で250年の節目を迎えるデンマークの老舗磁器ブランド、ロイヤル コペンハーゲン。“憧れのブランド”としても名高いその名前や、美しいブルーが印象的な絵柄は、誰もが一度は見聞きしたことがあるのでは。

 我が家の食器棚にも、両親が購入したカップが長い間眠っているのだが、実はずっと気になっていることがある。それは、カップの裏側に手描きで記された謎の“暗号”の正体だ。アルファベットに数字、謎の波線とバリエーションも様々な上、どんな意味があるのか、なぜ手描きなのかも、さっぱり分からない。これは一体なんなのだろうか?

日本オフィスを直撃! すると、担当者から“驚きの一言”が……

 長年の謎を解き明かすべくロイヤル コペンハーゲンの日本オフィスを訪ねると、マーケティング部マーケティングマネージャーの木田由香里さんがたくさんの食器とともに出迎えてくれた。目の前にロイヤル コペンハーゲンが並ぶだけで、その可憐さに自然と目を細めてしまう。

ロイヤル コペンハーゲンと言えば、この美しい絵柄!
ロイヤル コペンハーゲンと言えば、この美しい絵柄!

――どれもすごくかわいい! この青い模様を見るとロイヤル コペンハーゲンらしさを感じて、ひとめでときめきます。

木田 「白地に青で絵付けというのは、ロイヤル コペンハーゲンの基本パターンですね。この模様は『ブルーフルーテッド』といって、かつてヨーロッパの王侯貴族たちの憧れだった中国様式の唐草や菊と、ヨーロッパのロココ調のようなものがミックスして誕生したオリジナルの絵柄です」

 カジュアルでも品のあるデザインは、一枚で使っても食卓に馴染むが、揃うとやっぱり美しい……! これはいろんなパターンを集めたくなる、と思っていると、木田さんから衝撃的な一言が。

木田 「実はこの絵柄は、職人による手描きなんですよ」

木田さんが明かした真実に、思わず取材の手が止まる
木田さんが明かした真実に、思わず取材の手が止まる

――えっ、手描きですか?

木田 「はい、様々な工程の中でも特に重要にしているところです。プリントやシールではなく、手描きを守っているブランドというのはとても数少ないんですよ」

 そう聞いてじっくり見てみると、とても細かく丁寧に描かれているのがわかる。でも、こんなに複雑で繊細な模様を描くなんて、難しすぎませんか……?

木田 「ブルーフルーテッドにはフルートと呼ばれる溝があるのが特徴なのですが、その溝の上に平面的な線を描かなければいけないのが、もっとも難しいところだと思います。均一な色で、均一な太さで、平面ではないところに美しい曲線を描かなければならず、職人が一人前になるのには少なくとも1年半くらいかかると言われています」

たしかに表面が細かく波打っている。ここに絵を描くなんて……!
たしかに表面が細かく波打っている。ここに絵を描くなんて……!

 陶芸の世界では器の表面にあえて凹凸をつけることで柔らかさや温かみを表現すると聞いたことがあるが、それに通ずるのかも? と、知ったようなふりをしてふむふむと頷く私。機械的に大量生産されたものとは違う、熟練の技でひとつひとつ手描きされたものだと知ると、大切にしなきゃという気持ちが強くなる。

工場は本国デンマークに加え、意外なあの“伝統国”にも

――1つの製品のイチから完成まで、1人の職人さんが作っているんですか?

木田 「作る工程にはいろいろあって、成形とか釉薬をかけるとか絵付けをするとか、それぞれに職人が何人かずついるという感じです。創業当時から各工程にはクラフツマンシップと呼ばれる職人の技と、ものづくりの精神が込められていて、それは今でも変わっていません」

細かい模様の隅々まで、ひとつひとつ手描きされている ©ロイヤル コペンハーゲン
細かい模様の隅々まで、ひとつひとつ手描きされている ©ロイヤル コペンハーゲン

――なるほど、いくつもの人の手を渡り、職人たちのバトンリレーで作り上げられたものなんですね。長い歴史の間、クラフツマンシップは変わらず受け継がれているということですが、製品の変化はありますか?

木田 「品質そのものの向上は、もちろん常に目指し続けています。絵柄についてだと、年代によって流行りがあるのは面白いところかもしれません。エレガントな雰囲気のものが好まれていた時代もあれば、近年はモダンな感じの、気負わずに使えるデザインも人気ですね」

――時代に合わせて進化もしているんですね。

木田 「昔と同じものをずっとキープしていくだけではなく、歴史を守りつつ新しいエッセンスを取り入れて、パターンやカラーの変化をさせながら未来につなげていくことが重要だと思っています。とはいえ、デンマークのDNAも大切にしていて、何か新しいことをする場面ではデンマークにルーツを持つ方をデザイナーに起用するなどしていますね。

 近年ではコレクションも増え、世界中で求められるようになってきたことから、タイにも工場ができましたが、デンマークの職人がタイまで行ってクラフツマンシップをしっかり伝えています」

©ロイヤル コペンハーゲン
©ロイヤル コペンハーゲン

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――タイにも工場があるんですか?

木田 「はい。コレクションによってどこで作られるかは変わりますが、ロイヤル コペンハーゲンの精神やクオリティを担保するため、きちんと同じ技術を伝えています。また、委託ではなく、同じグループの社員として職人を雇っているので、意思の疎通は非常にしやすくなっています。アジアには手先が器用な方が多いので、完成品はびっくりするほど素晴らしいんですよ」

 たしかにタイは伝統的な工芸品や寺院の彫刻も有名だし、細かい技術が得意な国民性なのかもしれない。

いよいよ本題。食器の裏側の“暗号”の正体は?

――ところで、今日はこれが聞きたくて来たんですが、食器の裏側に書かれたサインはなにを意味しているのでしょう? 私が持っているロイヤル コペンハーゲンのカップにも書かれているのですが……。

木田 「よく聞いてくださいました。まず、ロイヤル コペンハーゲンのトレードマークである王冠は、王室由来であることを意味しています。その周りを取り囲む『ROYAL COPENHAGEN』は一見ただの文字なのですが、いくつかのアルファベットの上下に横棒が入っていて、これで作られた年代が判別できるようになっています。この食器のように、RとPに横棒があるものは、おおよそ2020年以降に作られたものですね」

目を凝らしてみると、Rの上とPの下に横線が。裏側を見るだけで色々なことが分かるのだ
目を凝らしてみると、Rの上とPの下に横線が。裏側を見るだけで色々なことが分かるのだ

――え〜! おもしろい!

木田 「手描きで記された3本の波線は、デンマークを囲む3つの海峡を表していて、デンマークにとって海運が非常に重要であったことに由来するものです。手描きのアルファベットはペインターさんに割り振られた識別記号ですね。イニシャルではないんですが、これを見れば誰がこの器の模様を描いたのかが、一発で分かるようになっています。

 波線の横の“1”はパターンナンバーワンといって、ロイヤル コペンハーゲンで一番最初に生まれたパターンである『ブルーフルーテッド プレイン』にのみ書かれています。こういったシリーズによる特徴は他にもあって、たとえば『ブルーフルーテッド メガ』というプレインの絵柄の一部を大きくデフォルメしたものは、裏も……メガなんです。こんなに大きくする必要あるのかな?とも思うんですけど(笑)」

「メガ」なサインはもはや絵柄のようで、すごくかわいい!
「メガ」なサインはもはや絵柄のようで、すごくかわいい!

 興味深いお話に、「へー!」「すごい!」「なるほど!」と感嘆詞を連発する私。ひとつひとつの文字や数字の意味がわかると、知ったばかりの知識を今すぐ誰かに言いたくなる。それと同時に、我が家にあるロイヤル コペンハーゲンのカップとの距離も急に縮まった気がした。

――ロイヤル コペンハーゲンのことをいろいろ知っていくと、眠らせておくのはもったいないですね。

木田 「そうなんです! 日本では、ロイヤル コペンハーゲンは特別なブランドと思われがちですが、デンマークの家庭では、代々受け継がれてきたブルーフルーテッド プレインの陶磁器が必ずあるというほど生活に馴染みが深く、日常的に使われているものなんです。食事の時にお気に入りの器に盛り付けをしたり、大切な人と過ごしたりして、心地いい時間を過ごす“ヒュッゲ”な暮らしを大切にしているデンマークの人々らしいですよね」

――たしかに、簡単な料理でもお皿がステキだとワンランクアップした気がしますし、パン1枚乗せただけでも気持ちが高まりますよね。

木田 「家庭で代々使われているくらいですから、ロイヤル コペンハーゲンは本当に丈夫で割れにくいです。さらに直営の本店や公式のECショップで購入された方には、購入から2年間は破損しても交換対応のサービスがありますので、どんどん使ってほしいですね。眠らせておくのは本当にもったいないんですよ」

©ロイヤル コペンハーゲン
©ロイヤル コペンハーゲン

 名高いブランドであるということと、かわいいからという単純な理由で手に入れた我が家のロイヤル コペンハーゲンにも、職人の想いと技が込められていることを知ると、愛着が湧き、より大切にしたくなってきた。

 ロイヤル コペンハーゲンが創業当初から今に至るまで伝えてくれているのは、変わらない職人たちのクラフツマンシップと、食器を使う私たちの特別で優雅な時間だ。世知辛い時代に生きる現代人にこそ、ゆっくりと時間を楽しむ余裕が必要なもの。私もたまには食器棚に眠っているところを呼び起こして食卓に迎え、ともにヒュッゲを過ごそうと思う。

ロイヤル コペンハーゲン
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