屈強な男たちに両手両足を抱えられた人物が、為す術もなくワゴン車に押し込まれていく――。ベラルーシの情報機関KGBが、スパイと見なした日本人男性を連行する瞬間だった。
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自白を強要されている感が拭えない
9月5日、ベラルーシの国営テレビが「東京から来た侍の失敗」と題する特別番組を放送した。手錠をかけられて出演している“侍”が、50代前半の中西雅敏さんだ。
国際部記者が解説する。
「ベラルーシ側は、中西さんがウクライナ国境で9000枚以上の写真撮影を行うなど軍事情報を収集し、日本の情報機関に送っていたとしている。番組の中で中西さんは『犯罪だと理解している』などと容疑を認めているが、自白を強要されている感が拭えず、“でっち上げ”との見方が強い」
「中西さんがスパイだったとも思えません」
埼玉県出身の中西さんは、現地報道などによれば、日本の大学の法学部を卒業した後、東京の民間団体に約20年勤務。2018年、ベラルーシ人女性と同国ゴメリ州で結婚式を挙げ、移住した。妻の作るパンケーキとソリャンカが大好物で、ゴメリ国立大学で日本語教師として教壇に立つかたわら、両国の文化交流にも力を入れていたはずだった。
一方、中西さんが恐れる日本の“上司”として名指しされたのが、長野県内で会社を経営するAさんだ。中西さんの妹の前夫であり、ゴメリ州での結婚式にも出席した男性だが、本人は「事実無根」と否定する。
「中西さんがスパイだったとも思えません。拘束は、日本文化を伝えようと頑張った彼の思いを踏みにじるようなものです」(Aさん)
全く違う“スパイ”らしき翻訳
件の特番では、2人のLINEのやりとりが紹介されているが、中国のビジネス面での東欧進出についての文章に、「最近の攻撃は米国のでっちあげのようだ」という全く違う“スパイ”らしき翻訳を当てている。
「番組で使われたのは3年前のもので、雑談レベルの内容です。やりとりは年に数回、彼から挨拶程度の連絡があるくらいで、最後は今年4月でした」(同前)