そんなまっすぐな思いを込め、宮田と佐野は面識がなかった五十嵐監督に一通のメールを送る。時はヴェネチアでも上映された『泳ぎすぎた夜』が、日本で劇場公開された2018年。監督は晴れやかだが、感慨深そうな表情で思い出す。「『自分たちで映画を作りたいと思っている。五十嵐さんに監督をしてもらいたいから、一緒にやってもらえませんか』と。企画がないなら自分で作る、そういう精神がいいなと思いました」
ほどなく企画は手探りで転がり出す。監督は当初、二人にプロットを書いてもらい、それを土台にして三人で話し合いを続けた。最終的には五十嵐が脚本を書くことになったが、宮田と佐野のパーソナルな経験や考えは、脚本に存分に生かされたという。当て書きされた青年二人の役名は、宮田と佐野の名がそのまま残った。
コロナ禍を挟み、皆で力を合わせ5年越しで完成させた映画は、見事、世界三大映画祭に迎えられることに。「作品の仕上がりは想像以上でした。ヴェネチアでは自分の演技より、本当に作品に没頭しながら見ました。好きなシーンは佐野と凪の出会いのシーン。あそこで泣けてしまうというか、一番好きでした」(宮田)
監督は「俳優の姿こそ、絶対に見てほしい」と強調する。「皆の芝居がとにかくめちゃくちゃ素晴らしいです。前半はわりと暗めの話なので、忍耐が必要かもしれません。でも、後半が始まった時の、皆のイキイキとした感じをぜひ見てほしいです」
多くの人の心に刻まれる一本
Giornate Degli Autori事務局によると、『SUPER HAPPY FOREVER』はイギリス人女性監督ジョアンナ・ホッグが率いる審査員メンバーが賞賛。受賞こそタッチの差で逃したものの、受賞候補のファイナリスト3本に残った作品だったという。本作について、「疑いなくヴェネチアで見た最も美しく、感動的なラブストーリー」「映画を見ていることさえ忘れ、詩的な物語に引き込まれる。最近、これほど鮮やかな感情が立ち上がる映画を見た記憶はない」といったメンバーからの評価が聞こえた。
日本では9月27日から劇場公開が決まっている本作。過ぎ去った夏が名残惜しくなるこの季節、砂浜に残された足跡のように、多くの人の心に長く刻まれる一本となるだろう。
『SUPER HAPPY FOREVER』
監督:五十嵐耕平/出演:佐野弘樹、宮田佳典、山本奈衣瑠、ホアン・ヌ・クイン/2024年/日本=フランス/94分/配給:コピアポア・フィルム/©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz/9月27日より全国ロードショー