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 本作は栄えあるオープニング作品として、8月28日にお披露目。監督と宮田はこのワールドプレミアに出席した。会場の反応は上々で、エンドロールが始まった瞬間に大きく温かな拍手が湧き起こった。満席となった600席の会場はスタンディングオベーションに。日仏のスタッフが入り混じる五十嵐組は、上映の成功を噛み締めながら、言葉の壁を越え互いに視線で健闘を称え合っていた。そして、拍手に迎えられた二人は、そのままQ&Aに登壇したのである。

 映画の舞台は人影まばらな海辺のリゾート地。2023年、夏が終わりに近づく頃。廃業間近の伊豆のホテルに、佐野(佐野弘樹)と宮田(宮田佳典)がやって来た。佐野は落ち着かない様子で、失くした帽子をしきりに探す。彼にとって大事な赤い帽子は、5年前のとある記憶と結び付く。パンデミック前の2018年、佐野はこの地で、後に妻となる凪(山本奈衣瑠)と出会い、そして彼女に帽子を買った。だが、今は帽子も、彼女の姿も見つからない。いつものように空と海が青く輝く場所で、亡き妻の過去と記憶が軽やかに溶け合う。一瞬が永遠にも感じられるポストパンデミック時代のラブストーリーだ。

『SUPER HAPPY FOREVER』©2024 NOBO/MLD Films/Incline/High Endz

面識のない俳優から来た一通のメール

 翌日、熱を帯びた上映会の感動も冷めやらぬ両人が、映画祭のメイン会場からほど近いGiornate Degli Autoriのオフィスで取材に応じてくれた。実は宮田にとっては初めての海外渡航が、いきなり今回のヴェネチア映画祭の参加になったという。「いきなりすごい体験になりました。まさか世界三大映画祭で上映されるとは、信じられない体験です。自分たちの夢が一つ叶ったというのが、体感としてありました」。上映後は、現地で「SUPER HAPPY! SUPER HAPPY!」と、多くの人に声をかけられたのも、楽しい思い出となったようだ。

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五十嵐耕平監督(左)と出演・企画の宮田佳典さん(筆者撮影)

 本作は俳優二人の熱意から始まった企画。「色々な監督がいる中で、僕らが一番求めていた作品性が、五十嵐さんにはありました。特に『息を殺して』は、ゴミ処理工場の中で犬を探す物語ですが、本筋の裏側に戦争やオリンピックなどの社会が映り込んでいます。また、映像の切り取り方も美しい。『五十嵐さんの作品の中で役として生きたい』という思いが、佐野くんと一致しました」(宮田)