「私にはたくさんお金を稼いで、お母さんに家を買ってあげたいって明確な目標があったから、中途半端なポジションでは意味がない。それで自分から会社に言ったの。私、ヒールをやりたいですって」
話題のNetflixドラマ『極悪女王』のモデルとなった、女子レスラーのダンプ松本さん。実はヒール役をあえて買って出たのにはもう1つ理由が…。新刊『全日本女子プロレス「極悪ヒール女王」列伝』(双葉社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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Netflixドラマ『極悪女王』について思うこと
「正直、まだピンときてないんだよね。周りからは『すごいね、すごいね』って言われるんだけど……」
ひょっとしたら、年末には“時の人”になっているかもしれないダンプ松本は、自身のプロレス人生がNetflixでドラマ化されることを、まるで他人事のように語った。
たしかに自分の人生だから、すべては「当たり前の話」の連続ではある。ただ、世間一般からすれば、それも令和という時代のコンプライアンスを通して見れば、そのエピソードはどれもこれも「嘘のような本当の話」になる。
昭和という時代、全女という異常な職場。
いまとなっては、もはや再現しようのない空気感がそこにはあった。
そして、そんな時代だからこそ、“極悪女王”ダンプ松本が誕生したのである。
もともとダンプはビューティ・ペアのジャッキー佐藤の大ファンだった。おっかけとまではいかないが、地元で全女の興行があった時には、応援ハッピを着て、会場に足を運んでいた。
そして、いつしか女子プロレスの世界を志すことになる。ジャッキーのファンだったから、当然、ベビーフェイス志望だった。しかし、なかなか芽が出ず、プロテストにも受からない。仲間たちが地方巡業に行っている間も東京で居残り番。与えられた仕事はプロレスラーとしてのものではなく、ひたすら営業の手伝いばかりで、営業車を運転させられていた。そんな日々にダンプの考え方は大きく変わっていく。
「最初はやっぱり憧れのジャッキーさんのそばにずっといたい、お付きの人になりたいって考えていたけど、正直、あの頃の全女の選手層を考えると、ベビーでトップになるのは大変だなって。頑張れば中堅ぐらいにはなれるかもしれないけど、それ以上は難しい。私にはたくさんお金を稼いで、お母さんに家を買ってあげたいって明確な目標があったから、中途半端なポジションでは意味がない。それで自分から会社に言ったの。私、ヒールをやりたいですって」
まさかのヒールへの立候補。