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絶大な権力を持っていても助けられない

 ホイットニー氏の失踪当時、デズモンド氏は温家宝氏をはじめ彼女と親しかった人物に彼女の救出を懇願したが、誰一人として力を貸す者はいなかったという。その中には、習近平政権の最高指導部である党中央政治局常務委員7人のうちの1人で、数十年にわたり中国の経済改革を支えた王岐山前国家副主席もいた。

「この絶大な権力を持っていた王岐山と、ホイットニーは中南海(党本部)で頻繁に面談する仲でした。当時、王の上司だった温家宝の心中を知る上で、彼女の情報は貴重だった。子のいない彼にとって、娘のような存在でもあったようです。しかし他ならぬ王岐山自身が、規律検査委員会のトップとしてホイットニーの拘束を承認したのです」

習近平国家主席 ©時事通信社

 こうした経験の中で、デズモンド氏は中国共産党の「本質」が見えてきたという。それは現在、世界中に流布する「好戦的な拡張主義者であり、世界の覇権を握ろうという野心に満ちている」といった中国のイメージとはやや異なる。

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「共産党の本質とは何か。それは、中国の人民と領土を永遠に支配し続けたいという願望。そして、この願望を阻むものに対する強烈な“恐怖”です。共産党の長期独裁政権を脅かすものに強い“恐怖”を感じ、徹底的に排除しようとする。これはもう“動物の本能”と言っていいでしょう。

 皮肉なことに共産党は、中国の国力が増すにつれ、この恐怖をより一層強く感じるようになっています。経済や外交の影響力が増したがゆえに、他国から反発を常に受ける。その反発が共産党の統治に対する脅威に見えるというジレンマに陥っているのです。この結果、中国は他国から覇権的に見える行動に走るのです」

 10月10日発売の「文藝春秋」11月号ではさらに、失速する中国経済の行方、台湾有事の可能性、習近平国家主席が社会にもたらす害など、中国共産党の闇を赤裸々に語っている(「文藝春秋 電子版」では10月9日公開)。