監督と同じイメージを共有できているか
―高橋さん演じる丸子は、コロナ禍でエッセンシャルワーカーに興味を持って配達員のバイトを始める真面目な大学生です。曲者揃いのマンションの住人に比べるとキャラクターの個性が弱く、逆に役作りがむずかしそうな印象を受けました。
高橋 ここ2年ほどは原作モノの作品に出演させていただくことが多く、オリジナル脚本は久しぶりだったんです。原作がないぶん、監督と同じイメージを共有できているかの答え合わせが撮影初日までできない不安はありました。
水野 僕が考えていた丸子は誠実でひたむきな青年。文哉くんは最初からそのイメージに限りなく近い芝居をしてくれたけど、撮影初日は正解がわからないままやってるみたいなところがあったよね。
高橋 はい、ありました。
水野 そこで初日か2日目に丸子のテンションについて意識のすり合わせをしました。たとえば、丸子はどんな仕事にも真摯に取り組むタイプで、仕事中は溌剌としてるんだけど、実は生活に疲弊している部分もあって……とか。
高橋 「少し疲れている感じが歩き方に出ると良いよね」といった細かなアドバイスをくださって。おかげで2日目、3日目には丸子役が板についてきた実感がありました。
見ごたえある住人と、丸子のやりとり
―袴田吉彦さん、坂井真紀さん、染谷将太さんらが演じる個性豊かなマンションの住人と、丸子のやりとりも見ごたえがありました。
高橋 実在するマンションで撮影したので、僕は本物の配達員のように先輩方がいる部屋を訪ねていくわけです。みなさんそれぞれに独特のリズムを持って芝居する方々ですから、入れ代わり立ち代わりご一緒するうちに、自分のリズムがどんどん乱されていくのがわかりました。この役においてはそれが心地良く、先輩方の胸を借りるつもりでお芝居させていただきました。
水野 そんな中で文哉くんの芝居もどんどんブラッシュアップされていったよね。文哉くんのそういう素直で勤勉な姿勢が丸子とうまくリンクしていたと思います。