中国で日本人児童が襲われる事件が相次いでいる。6月には蘇州で、日本人学校のスクールバスが刃物を持った男に襲われ、制止に入った中国人女性スタッフが死亡。9月には深圳で、日本人学校に通う児童が刺殺された。
10月10日には、石破茂首相がラオスで中国の李強首相と会談し、深圳で起きた事件の事実関係の解明を要求。邦人保護の徹底に向けた取り組みが求められている。
なぜ、日本人が狙われる事件は続発するのか。そして、日本人児童の安全を守るためには、何が必要なのか。前駐中国大使の垂秀夫氏が緊急寄稿した。
深圳日本人学校でのスピーチ
9月18日に深圳日本人学校に通う児童が刺殺されるという痛ましい事件が発生してから、もうすぐ1カ月が経とうとしています。私は駐中国大使を務めていた当時、深圳日本人学校を訪問したことがあります。昨年5月16日、子供たちへのプレゼントを持参し、様々なゲームなどで交流したのですが、その場に被害児童も参加していたかと思うと、いたたまれない気持ちになります。
この時、子供たちに向けてこんな話もしました。
「皆さんは日本人ですが、いま、中国の深圳にいます。それは、お父さんやお母さんのお仕事の関係など、様々な事情があるでしょう。自分で選んだわけじゃないけれども、隣の友達と日本から遠く離れた中国の深圳で一緒になったのは、何かしらの縁があるということです。不思議な力が働いていて、いま、ここに一緒にいます。その縁を感じたら、友達と喧嘩している場合ではないでしょう。みんなで仲良く、大切な時間を過ごしてください。この縁というのは、日本と中国の関係を考えるうえでも、とても大切なことだと思います」
日本人学校を重視してきた
中国共産党が強権的な姿勢を強めていく中で、日本人コミュニティを取り巻く環境はますます厳しいものになっています。その中で最も弱い存在が、日本人学校であり、とりわけ、学校に通う児童であります。単に日本人学校を標的にしたいのであれば、教師を狙うこともできたはずですが、凶悪犯は小さな子供の命を狙った。最も卑劣で、決して許すことのできない蛮行です。
私の息子は幼い頃、北京と香港に加え、台北の日本人学校にも通っていました。恩返しの思いも込めて、大使として活動する中で、日本人学校との交流や、児童たちの安全確保を常に最優先に考えてきました。北京日本人学校の卒業式には毎年出席して祝辞を述べましたし、北京郊外で農園を経営している友人に依頼して、果物狩りの遠足を企画したこともあります。また、京劇の元俳優を日本人学校に招き、児童たちに、孫悟空をはじめ京劇の役柄の化粧をしてもらったこともあります。訪問した日本人学校には必ず、私が内モンゴル自治区の草原で撮影した写真をパネルにして贈呈しました。大小、3本の木が集まった写真で、タイトルは「寄り添う」。各日本人学校は入り口に飾ってくれています。