テレビも観ず、携帯すら持たず…休業中に唯一続けたこと
休業中は事務所の寮の中で、テレビを観ず、映画も観ず、携帯すら持たず、家族以外との交流を一切断って暮らした。唯一、事務所の社長に勧められて、小説のレポートを書いて送ることは続けていた。このような日々は1年ほど続く。
休業からの復帰作となる映画『の方へ、流れる』(22年)では本心がどこにあるかわからないヒロイン、映画『死体の人』(23年)では死体役専門の俳優と恋に落ちるデリヘル嬢を演じた。しかし、大きな話題になったとは言えなかった。短編『真夜中のキッス』(23年)にオファーした佐向大監督は「唐田えりかって実在するの?」と思っていたらしい(NOBODY 2023年6月23日)。
唐田が「宝物のような作品」(エンタメOVO 2023年11月28日)と言うのが、石橋夕帆監督の映画『朝がくるとむなしくなる』(23年)。仕事で失敗して孤立してしまった主人公・希の再生を描く物語で、希を優しく励ます親友・加奈子を、実生活でも親友の芋生悠が演じた(芋生は『極悪女王』でマキ上田に扮している)。加奈子の「正しくなんて生きられないよ、みんな」というセリフを聞いて、リハーサルで唐田は泣いてしまった(FRaU 2023年11月26日)。
ずっと欲しいと願っていた「強さ」を得た
一步一步、復帰への道を踏みしめてきた唐田は、ついに『極悪女王』で溜め込んできたエネルギーを爆発させる。とはいえ、ここまで一人で復活の道を歩んできたわけではない。
「この作品に出会えていなかったらどうなっていたんだろう……と思えるぐらい自分にとっても大きな作品になりましたし、仲間に出会えたことも幸せでした」(シネマトゥデイ 2024年9月12日)
『極悪女王』では多くの仲間たちと出会った。共演した親友もいた。休業中もずっと向かい合ってくれた事務所の社長とは、髪切りマッチの撮影の直前に駆け寄り、グータッチをしてリングに向かった。まわりの人に支えられ、歯を食いしばって得たものは、ずっと欲しいと願っていた「強さ」だった。唐田は「長与さんを演じながら『諦めない』ことの強さを改めて学びました」と話す(映画.com 2024年9月12日)。
「憑依型」という言葉があるが、さらに深く本人と役柄が一体化したとき、すさまじいエネルギーを放つ女優だということが、これまでの歩みでよくわかる。これまでは危なっかしさもあったが、手に入れた「強さ」をもとに、これからもいろいろな役柄を飲み込んでいくのではないだろうか。