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 唐田の演技力が光っていた――という表現は少しそぐわないのかもしれない。演技をしているのは間違いないのだが、どこか本人を見ているようにも思える。その境界線が曖昧なのだ。

「演技力というものがよくわからない」と話す濱口監督は「魅力的な人を選び、その魅力が出るように心がけています」と言う。唐田に合ったセリフを書き、ひたすら何度も繰り返し読んでもらうことで、自然にセリフが口から出るようにした(映画ナタリー 2018年9月18日)。唐田の演技を受け止め、支えた相手が東出だったのは言うまでもない。

2018年10月、「第23回釜山国際映画祭」オープニングセレモニーに出席した唐田えりかと東出昌大 ©時事通信社

「自分に正直でいたいと思っています」

 伊藤沙莉、瀬戸康史、田中美佐子ら達者な俳優が周囲に配置されている分、大げさな芝居をしていないのに立っているだけで内側から何ものかが滲んでくる唐田の存在が際立って見える。それこそが濱口監督の求めるものだったのだろう。

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「ふわふわして見えるくせに、思い込んだら一直線、みたいな」。これは伊藤が演じる親友の春代が朝子について説明するセリフだが、どこか唐田本人について語っているようでもある。次の唐田の言葉を聞くと、やはり二人は重なっているように感じる。

「自分のことを押し殺したくないし、自分に正直でいたいと思っています。直感で動いた結果、人を傷つけてしまうことが仮にあったとしても、それがあってこその“今”だし、すべてがつながっているわけだから後悔はないだろうし、それを信じてやっていきたいと思います」(ぴあ映画 2018年9月5日)

映画『寝ても覚めても』より

出演を重ねさらなる飛躍が期待されていたところに…

『寝ても覚めても』は国際的に高い評価を受け、唐田もさまざまな女優賞を受賞した。この間、何本ものドラマ、映画に出演を重ねていく。

 少女マンガ原作の映画『覚悟はいいかそこの女子。』(18年)ではクールビューティーのヒロイン、NHKの意欲作『デジタル・タトゥー』(19年)では主人公の大学生の娘を演じた。ベッドで撮った写真が流出して誹謗中傷され、テレビ局の内定辞退を迫られるという役柄だった。

『凪のお暇』(19年)では「空気クラッシャー」として同性に嫌われ、主人公の元彼に迫る女性を演じた。韓国エンタメの大ファンの唐田が、韓国語を習得して臨んだ韓国ドラマ『アスダル年代記』(19年)も配信され、さらなる飛躍が期待された。

 しかし、2020年1月に既婚者だった東出との不倫騒動が起こり、非難の声は唐田にも降り注ぐ。事務所は謝罪のコメントを出し、公式サイト、インスタグラムなどを削除したがバッシングは止まなかった。出演中のドラマも降板となった。