昭和34年(1959年)創刊の総合週刊誌「週刊文春」の紹介サイトです。最新号やバックナンバーから、いくつか記事を掲載していきます。各号の目次や定期購読のご案内も掲載しています。

ヤンキース復権の陰に松井秀喜氏の“育成”手腕あり

指導したマイナー選手が相次いで打撃開眼

2018/05/18

「いい選手ほど残らない」のが悩み

 マイナー選手は活躍するほど他球団の目につき「いい選手ほど残らないという矛盾もある」のが悩みだ。だが逆に松井氏が「ラッキーだった」と話す移籍もあった。2016年7月にカブスから加わった内野手のグレイバー・トレスだ。抑えのアロルディス・チャプマンを出した1対4のトレードで獲得した4人のうちの1人だった。30球団一の有望株として知られていたが、抑え投手が必要だったカブスはトレードの条件をのんだ。チャプマンはシーズン後にFAとなり、ヤンキースと再契約。ヤンキースにとっては、3カ月のレンタルで宝を手にしたようなものだ。

 松井氏はトレスの攻守のセンスについて「メジャーに上がる選手だと誰が見ても分かる。昇格は時期だけの問題だった」と話す。トレスは今年4月22日に大リーグでデビューすると、すぐに順応して正二塁手に収まり、5月6日のインディアンス戦でサヨナラ3ランを放つなど期待通りに打ちまくっている。

©Kotaro Ohashi

「選手の中に入り込んでバットを振る」

「指摘することと、変わるように導いてやることは全く別で、両方やって初めて指導者と言える」と松井氏はコーチングの信条を口にする。練習中はひたすら打撃を見つめ「選手の中に入り込んでバットを振る」と選手に同化する。指導を始めるのは「どのような考えでそのバッティングをしているのか」と選手の頭の中までのぞき込んでからだ。

 指導力への評価は年とともに高まっている。3Aスクラントンのボビー・ミッチェル監督は、昨季まで2Aトレントンの監督として松井氏のコーチぶりを見てきた。「マツイの存在は選手にとって大きい。組織に必要な人間だ」と力説する。

 今季は松井氏の周囲に変化があった。昨季まで3年間、育成部門を統括したデンボ氏がマーリンズのオーナーとなったジーター氏に引き抜かれ、マーリンズの育成部長となった。育成はそれだけ重視される部門で、松井氏の今後が注目される。

かつてのチームメイト高橋由伸率いる巨人のキャンプを訪れた松井氏 ©文藝春秋

 もちろん日本球界も松井氏を放ってはおかないだろう。待望論があることは、本人も当然分かっている。2月には巨人の宮崎キャンプで1週間臨時コーチを務めた。そこで時間を割いて指導した小林誠司と岡本和真が開幕から打撃好調で、巨人の幹部はあらためて指導力を認めたはずだ。

 松井氏は「経験を日本球界にどういう形で返すのか。それも考えなくてはいけない」と話すが、一方で「今後のはっきりしたプランは持っていない」と将来については語ろうとしない。明言するのは「今はヤンキースでの仕事に集中して組織の力にならなくてはいけない」ということだ。

 ヤンキースのブライアン・キャッシュマンGMの長期戦略は実を結んでいる。ジャッジ、サンチェス、トレスという核を得たチームは、再び「悪の帝国」となってFA市場で必要なピースをそろえ、黄金期の建設を図るに違いない。その戦略の中で、松井氏が担う役割は何なのか。

 引退後にこれほど深く大リーグの球団と関わって仕事をした日本選手はこれまでいないはずだ。日本で監督となって経験を生かすなら、もちろん日本球界への貢献になる。ただそれは同時に日本球界にとって、米球界で地歩を固めるパイオニアを失うことでもある。唯一の存在として米国にとどまるのもまた、日本球界への貢献と言えるのではないか。

この記事の写真(6枚)

ツイッターをフォローして最新記事をいち早く読もう

文春オンラインをフォロー