本年6月15日、住宅宿泊事業法(通称「民泊新法」)が施行される。民泊は2013年9月に東京五輪開催が決定した頃から急速に増え始めた訪日外国人(インバウンド)の受け皿として急速に成長した宿泊事業である。民泊仲介サイトである米国のエアビーアンドビーや中国の途家(トゥージア)が日本への観光客増加に目をつけて、日本の空き家やマンションの空き住戸を利用して始めた事業は、当初から「異質なもの」「嫌悪すべきもの」としてメディア等を通じてセンセーショナルに紹介された。

民泊仲介大手の米エアビーアンドビーのクリストファー・レヘイン氏(右)が登録申請書類を観光庁の田村長官に手渡す ©共同通信社

 具体的には、マンションに見知らぬ外国人観光客が入り込んで深夜に大騒ぎをする、ゴミ出しのマナーを守らないなど、地元住民との軋轢といったものに対する問題意識だった。

 いっぽうでインバウンドの数を2020年4000万人、2030年には6000万人にするという意欲的な目標を掲げる政府としては、増え続けるインバウンドに対応した宿泊施設の整備は喫緊の課題である。そこで2013年には国家戦略特区において旅館業法の特例として、民泊を積極的に認めていこうということになり、東京都大田区や大阪市、大阪府を皮切りに北九州市、新潟市、千葉市といった自治体において、住居専用地域も含めて柔軟に民泊を行わせることにした。

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「黒船」来襲と規制緩和

 また2016年4月には旅館業法を政令改正し、業法で定める簡易宿所の規制を緩和し、カプセルホテルやホステルなどによる宿泊施設の整備を後押しした。

 しかし、簡易宿所では住宅地域での営業ができないため、特区民泊と簡易宿所だけでは増え続ける宿泊ニーズに対応ができないこと、また法の網目を潜るグレーゾーンにある民泊を正しく位置づけようということで民泊新法を制定しようという動きになったのだ。

 この法律は民泊を「住宅宿泊事業者」「住宅宿泊管理業者」「住宅宿泊仲介業者」という関係者ごとに事業の届け出や登録などを義務付けることで民泊の位置づけを明確にし、宿泊に纏わるトラブルを少なくし、日本を訪れるインバウンドに対する新しい「おもてなし」としようという「前向き」な方向性での制定を当初は目指していたようだ。

 2017年6月16日に公布されたこの法律は、その後自治体においてそれぞれの事業に応じた条例を定めることが可能だったことから、本年6月15日の施行までに各自治体の議会ではこの新しい黒船の取り扱いを巡って大議論が交わされることになったのだ。

「いけず」な京都人、「商売人魂」の大阪人

 たとえば、多くのインバウンドが押し寄せる京都市では、住居専用地域(第1種および第2種の低層住居専用地域および中高層住居専用地域)においては、個人の事業主であっても3月16日から翌年の1月14日までの期間における民泊禁止を打ち出した。法的には民泊の営業日数は年間で180日が上限であるにもかかわらず、京都市の住居専用地域では、京都が最も観光に向かない厳冬期の2か月(1月15日から3月15日まで)のみ解禁となったのである。

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 京都人らしい「いけず」なルールである。京都市内は恒常的に観光客が溢れ、実は日本で最も宿泊施設が足りない観光地であるにもかかわらず、おそらく日本で最も厳しい民泊ルールが施されたのではないだろうか。この背景には「いけず」もさることながら既存のホテル旅館業界の自治体に対する強烈な圧力があるようだ。どの自治体も地元の「声の大きい」相手に対しては弱いのだ。

 いっぽうで同じ関西でも大阪市は国家戦略特区での民泊推進を掲げ、民泊に対しても法の範囲でほぼ自由に行わせる考えを早くから表明した。「いけず」な京都人に対して大阪商人は「機を見るに敏」。儲かるもんならなんでも商売に結び付けようということで両市の気質の違いの現れともいえた。

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