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「犯罪やテロの温床になる」と排除の動き

 ところが、この自由な大阪でさえ、条例制定寸前の今年初め、「待った」がかかった。女性の切断死体が市内の民泊施設から発見されたためだ。結局大阪市の条例でも住居専用地域での民泊禁止、小学校周辺100m以内では月曜日12時から金曜日12時までの民泊禁止を謳わざるを得なくなったのだ。事件を受けて規制強化を訴える声に押されたのが理由だろうがそこは大阪。住居専用地域の禁止条例には但し書きがついていて、「幅4メートル以上の道路に面していない場合」に限るとなっている。建築基準法では幅員4メートル以上の道路に2メートル以上接していないと住宅を建設することができないため、多くの住宅は道路に接して建てられている。大阪商人らしくしっかり「抜け道」を用意しているのだ。

スーツケースの中から女性の頭部が見つかった大阪市西成区の民泊施設 ©時事通信社

 京都と大阪の違いはさておき、新しい習慣やルールを設けるとき、日本人はネガティブな面をとりわけ抉り出して「否定」と「規制」から考えを組み立てる傾向にあるのではないか。そしてその背景に必ず聳えるのが既存勢力=既得権益者の存在である。

 民泊が殺人事件の舞台やテロの温床になる可能性については、適切な対策を打つ必要があるのは論を待たないが、このことはホテルや旅館でも可能性はゼロではない。要はいかに対応できるかをルールに盛り込むことだ。ところが、日本では議論ではなく「けしからん」と排除する方向に動きがちだ。

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受け入れ側も気づいていない民泊の大きな利点とは

 実は民泊は、日本の普通の住宅に宿泊できるという体験を「売り」にするだけではなく、現在のホテルや旅館がもっていない機能があることに受け入れる側の多くの人たちが気づいていない。日本にやってくるインバウンドは団体旅行やカップルだけではない。アジアから来る多くの観光客はファミリーやグループなのだ。ところが現在のホテルや旅館でこうしたファミリーのニーズを満たす施設は少ない。国内の宿泊施設に備わる小さな部屋ではそもそもファミリーが泊まることを想定していないのだ。

 民泊の人気は、利用する住戸に2部屋あるいは3部屋があって、リビングダイニングが備わった住宅に宿泊することで、家族のプライバシーも確保され、なおかつスーパーで買ってきた日本の食材を使って自分たちで料理して食事し、団欒を楽しめるスペースがある点が評価されているのだ。

東京都大田区の民泊物件の一戸建て ©時事通信社

 いっぽうでホテルや旅館側からみれば、ガタイの大きな部屋は宿泊効率が悪く、採算上は持ちたくないというのが本音だ。民泊はこうした旅行客のニーズをくみ取った新しい宿泊スタイルでもある。目の敵にしてせっかくの民泊新法をがんじがらめにして実用性のないものにするのではなく、正しいルール決めの中で互いの棲み分けを考えるべきなのではないだろうか。小さな島国に住む日本人の既得権益と排除の論理が横行する小さな器=度量の狭さが、新しい事業の芽を潰しているのだ。