石破茂首相が実行すべき経済政策とは——。帝京大学教授の軽部謙介氏、日本総研調査部主席研究員の河村小百合氏、BNPパリバ証券グローバルマーケット統括本部副会長の中空麻奈氏、ウェルスナビ代表取締役CEOの柴山和久氏の4人に聞いた。

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財政再建から逃げるな

 軽部 総裁選の過程で各候補が打ち出した経済政策は、すぐ他の候補から突っ込みが入って訂正したり、意見を引っ込めたりすることが往々にしてありました。豪雨などの災害の影響もあり、本格的な論戦になりませんでしたが、それらの政策の中には、真剣に議論しておくべき政策もあったと思います。

 たとえば、石破茂さんが打ち出した、現行一律20%(所得税15%、住民税5%)の金融所得課税の強化です。「貯蓄から投資への流れに水を差すのか」といった批判にさらされて、石破さんは、課税強化は一部の富裕層に限定すべきだと発言を修正し、議論は深まりませんでした。

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総裁選では金融所得課税にも言及  Ⓒ時事通信社

 この制度自体は、実は前回の総裁選で岸田文雄さんも公約に掲げていました。新政権の目玉だった「新しい資本主義」の旗印だったのに、総裁選後に党内から批判を受けて、あっという間に撤回してしまった。増税の議論はいつの時代も国民の不興を買うので、とにかく先送りにされがちですが、日本の財政の状況を考えれば、総裁選でもっと議論しておくべきだったと思います。

法人税は上げる余地あり

 河村 財政収支の赤字幅がこれだけ開いているのだから、金融所得課税の強化もありだと思います。石破さんは金融所得課税の強化だけを唐突に打ち出すのではなく、「財政再建」という大目的のためには、ここにも手をつける必要があるんだ、といった大きな構えの議論を提起すべきでした。その方が国民も聞く耳を持ったはずです。

 中空 そうですね。いまは所得税、たばこ税など増税しやすいところから取ればいいという発想に見えています。タイミングは考える必要がありますが、財政再建を目指すのであれば当然、広く薄く徴収する消費税の議論も避けては通れません。

(左上から時計回りで)河村氏、軽部氏、中空氏、柴山氏 ©文藝春秋

 河村 法人税について石破さんが「上げる余地がある」と言っていましたが、その通りだと思います。内部留保をたくさん抱えていたり、円安の恩恵を受けている企業は数多くある。

 軽部 法人税は安倍晋三政権下でトリクルダウンを狙って段階的に引き下げられましたが、上手くいかなかった。取れるところから取ろうということですが、党税制調査会では議論百出になるでしょうね。

 河村 税に関する議論は、選挙を考えたら言いたくないのはわからなくもないが、政治家こそが提起しなければなりません。欧米では近年、ウインドフォール課税(予期せぬ大きな利益に課される税)の導入が広がっています。ウクライナ戦争による資源価格の高騰を受け、米英等の各国では“棚から牡丹餅”のごとく大儲けしたエネルギー会社等に対する課税を強化した。企業からしたら払いたくはないでしょうが、「誰かが払わなかったら国が回らない」という意識を国民が持っているから、受け入れているわけです。

 防衛費の増額によって利益を受ける会社へ増税することも考えると石破さんは言っていましたが、これはウインドフォール課税の一種。ご自身が防衛大臣を務めた経験があるからこその意見だと思います。