センスの哲学』が話題の哲学者・千葉雅也さん。「センス」や「芸術」、あるいは「芸術と生活」について、読者の疑問に応える連載「センスにまつわる質問箱」が始まりました。記念すべき初回。本日は、インド料理にハマった26歳公務員の質問に答えます。

『センスの哲学』(千葉雅也 著)

【vol.1 センスのいい自炊とは?】
 最近、インド料理にはまって、そこから自炊を週に3~4回するようになりました。「お店みたいな味にしたい」と思いながらも、「それだったらお店で食べれば良いから、万人向けしなくても自分の好きなものを…」などと色々考えるようになってしまいました。千葉さんにとってセンスの良い自炊とはどういうものでしょうか?(マッサラ―、千葉県、公務員、26歳)

千葉さんのお答え 「あるものでパパッと作る」という感覚がベース

 インド料理にはまったのであれば、インド料理特有の素材の使い方、スパイスなどを自炊に取り入れてもいいかもしれませんね。でも、お店のようにしなくてもいいわけです。自炊というのは、こだわり過ぎないほうがいいと思います。やっぱり効率が大事。そんなに時間をかけないでパパッと作る。食材の使い回しもそうで、「あるものでパパッと作る」という感覚がベースだろうと思います。 

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 炒め物を作ろうと材料を買ってきて、そのうちひとつがなくなり二つ残ったなら、次はそこに何かを買い足す、というふうに冷蔵庫の中身が変化していく。その時々に何が残っているかで、作るものがノリで変わっていく。モヤシと豚こまがあれば、それなりの炒め物が作れちゃうわけです。

 今日はビーフシチューを作ろうとか、ちらし寿司にしようとか特定の料理を作る日もあるでしょう。でも生活のなかで、多くの人は自炊にばかり気を向けられない。大げさなことをしなくても、塩胡椒で炒めるとか、トマト缶で煮込むとか、それだけで料理になる。そういうミニマムなラインをまず押さえておいた上で、こだわりすぎずにやっていくのが「センスのいい自炊」だと思います。味つけはだいたい基本が決まっているし、料理というのも有限なものだと思います。