人間は好きなことをしてないと「ヤバい」
小西 以前、孫泰蔵さんの本『冒険の書 AI時代のアンラーニング』の帯コピーを書かせてもらったことがあります。「なぜ学校に行かなければいけないのか?」「才能とはなにか?」など一つひとつの問いをめぐって主人公が探求し続けるストーリーはまさに、「智の旅」とでも言うべき傑作ですが、そこで僕がメインコピーにしたのが、「好きなことだけしてちゃダメですか?」でした。
孫 最初にコピーをもらったとき、「コニタン、これ分かるんだけど、そんなメインにするほどかなぁ」なんて返しましたよね(笑)。「もちろんいいに決まっているじゃん!」と。
小西 はい(笑)。でもこれが突き刺さる問だと思ったんですよね。さらに深く言えば、人間身の回りをみたときに「面白い」と思うことは沢山あっても、「心から好きになる」「これだけはやめられない」「自分でも作りたい」と思えるものやジャンルは少ないから、それこそを仕事にすべきだという思いがそこにはありました。AI時代こそ、好きで没頭できるもので戦ったほうがいい、と。
孫 確かに、実際に本が出たら、このフレーズが刺さって手に取ったという読者からのコメントや感想を沢山もらいました。AIの驚速の進化を踏まえると、むしろ人間は好きなことをしてないとヤバくないか?というのが僕の実感です。好きじゃないことやっても仕事で通用するわけがない。
会社の経営的観点でいうと、業務の大半が自動化されてAIがやってくれるなら、劇的にコストが下がるはずです。すると利幅が大きくなるから「浮いた人」を解雇する必要はない。僕がその会社の経営者だったら、「あなたたちは絶対に解雇しないから、事業規模を2倍、3倍にしていこう。もっときめ細やかにお客さんごとにカスタマイズされた製品・サービスを全員で企画していこうよ」って呼びかけますね。
小西 現場の従業員はそこでの暗黙知を沢山持っていますが、企画に反映する場はなかなかないですよね。でも泰蔵さんがいうように全員が企画にコミットしたら、これまでになかった新しいタイプの商品が生まれそうです。
働く側も、これまでと働き方や業態は変わるかもしれないけれど、自分が蓄積してきた経験値や好きなものの強みを活かすというマインドチェンジが必要になってくと思います。
「問い」をつくれるのは欲望をもつ人間だけ
孫 まさにそうで、あとAIではできないことが「問いをつくること」。生成AIがどういう原理で成り立っているかを勉強するとすぐにわかりますが、端的にいうとAIは人類が使ってきた言葉の集合知です。だからAIを別次元のミステリアスな存在に思う必要は全くなくて、AIに私たちが「知」を加えていけばもっともっと素敵な集合知が生まれます。ただしこの集合知は、自分から問いを立てることはできない。
問いは、個人的なモチベーションや好奇心からしか生まれないからです。集合知は好奇心をもっていない。
小西 なるほどね!
孫 たとえばAIから「こけない階段をどうつくるか」という問いは生まれません。それは階段でこけて痛い思いをしたことのある人だけがなんとかしたいと思う欲望です。もちろん、問いを入力して、もっと細かい問いに分解してバリエーションをつくることはAIもできますが、起点となる問いはこの先どんなに進化しようが原理的にAIからは出てきません。問えるのは、欲望をもつ人間だけなんです。