センスの哲学』が話題の哲学者・千葉雅也さん。「センス」や「芸術」、あるいは「芸術と生活」について、読者の疑問に応える連載「センスにまつわる質問箱」第8回の本日は、文章の書き方を試行錯誤する26歳の質問に答えます。

『センスの哲学』(千葉雅也 著)

【vol.8 センスのある文章を書くには?】
 センスのある文章が書けません。真似したい作者の文章を書いたり、読んだり、声に出したりしていますが、いざ書こうとするとその作者とは別の文章になります。センスのある文章を書くにはどのような訓練が必要でしょうか(Masa, 東京都、会社員、26歳)。

千葉さんのお答え 真似から出発して自分の文章を作っていく

 真似したい作者の文章とは別の文章になる。それはむしろいいことなんじゃないでしょうか。同じになってしまったら困るわけで、真似したい人の文章を意識しながら、それとはずれていくということを、積極的に、文体生成の方法として捉えたらいいのではと思います。

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 参照する文章は一人である必要はなくて、二人、三人くらいミックスするのはどうでしょう。メインはこの作家なんだけど、あの人のニュアンスも入れてみよう……という感じで。三人の文章から一段落ずつ、ごく短いサンプルを持ってきて、特徴つまりリズムをミックスするとどうなるかと考えてみる。僕もそういう実験をします。

 サンプル抽出は短くていいんです。こういう目的で誰かの文章をリサーチするときは、基本的に全部は読みません。ランダムにパッと開いた1ページ、そこから読み取れるものでいいんだと決めて、特徴抽出をしてみる。それだけのサンプルでは不十分ですが、真似をしたいんじゃなく、そこから出発して自分の文章を作っていく参考にしたいのだから、むしろ不十分なほうがいいのです。試してみてください。