神奈川県三浦市内の海岸にある洞窟で発見された彼女の遺体は、強姦のすえにバラバラに切断されていた…。2000年に起きた「ルーシー・ブラックマン事件」の犯人、織原城二。一代で財を築き上げた苦労人の父親のもとで育ちながら、彼はなぜ放蕩に走り、ついにはイギリス人女性のルーシー・ブラックマンさんを殺害したのか?
彼の人生を追うべく、生まれ育った故郷に足を運ぶと…。ノンフィクション作家の八木澤高明氏の新刊『殺め家』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)
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「このあたりにいたって話を聞いたことがあるけど、はっきりわからんなぁ」
大阪環状線桃谷駅を下りて、30分ほどぶらついただろうか、私は織原城二の父親が暮らしていた土地を確認するため、在日朝鮮人が多く暮らす地区を歩いていた。小さな雑貨屋の主人は珍しいことを聞くなというような表情をして、そう言ったのだった。
2009年、焼肉店が多く建ち並ぶことで知られている鶴橋から近く、かつて猪飼野と呼ばれていたこの付近は、朝鮮半島の人々が豚を飼っていたことから、そう名付けられ、朝鮮半島との結びつきは古代から根強いものがある。織原の父親は、英国タイム誌や各週刊誌の報道により明らかになっているが、朝鮮半島の出身で屑鉄拾いから身を起こし、タクシー、パチンコ、不動産経営などで莫大な資産を築き、大阪の在日社会の中で誰もが知る人物となった。そして、彼が17歳の時に謎の死を遂げる。マネーロンダリングに絡んで殺害されたとの報道もあるが、真相は闇の中だ。
六本木のナイトクラブで働いていたルーシー・ブラックマンさんへの準強姦致死、死体遺棄、他にも9人の外国人女性への準強姦致死罪などで無期懲役の刑に服している織原は大学時代に日本人に帰化している。
ただ私は彼のルーツであり、父親が半島からやって来て、身ひとつで成功をおさめるため、正に血と汗を流しながら働いた原風景を見ておきたかった。
町の中には、ハングルも目につき、老人たちの中には、日本語を流暢に話せない人も少なくなかった。
在日朝鮮人の問題となると、どうしても強制連行や慰安婦問題など、政治的な視点で語られることが多い。