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柳沢、内田、柴崎らを見つけた鹿島の名スカウトに学ぶ「仕事とは何か」

J1鹿島アントラーズ・椎本邦一スカウト部長インタビュー

2018/05/19
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「すぐに試合に出られるなんて嘘は言わない」

――練習に参加させてオファーするかどうかというパターンはないのですか?

「ないね。俺が声を掛けた時点で、それがオファー。つまり選手は自分の意思で練習に参加してくれている。もちろん俺のほうでクラブでの練習の受け入れ態勢を調整するし『せっかく来るなら1週間ぐらいやったほうが、自分のプレーを見てもらえる』とかアドバイスはするけどね。結局、こっちからのオファーを受けるかどうかは、選手側の判断になるわけだから」

――オファーしても獲得できるとは限らない。どんな口説き文句を?

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「嘘を言っても仕方ない。だからすぐに試合に出られると思うなんてことは口が裂けても言わない。それは今いる選手に失礼。むしろ厳しい世界であることを伝える。ただ、育てることに関してクラブが自信を持っていること、高校生であれば1、2年で体をつくっていけばポジション争いできると思うから声を掛けさせてもらっている、とは言う。学校や親御さんにもそうやって説明する。

 だから嘘は言わない。昔、オファーを出して練習に参加した高校生が『鹿島はちょっとレベルが違う』と話し、最終的にオファーを断ってきたことがあった。断られたのは残念だけど、ちょっと嬉しかったのよ。だってすぐに試合に出られそうだと思われたら、トップチームのことが心配になるよ(笑)」

――数限られたオファーを早く決断して、学校を通じ本人に伝え、甘い誘い文句もないわけですね。

「それは俺がどうこうじゃなくて、クラブに魅力があるからだよ。いい施設があって、タイトルを多く獲って、選手を伸ばしてくれているから。それが一番」

無名に近い選手をどう発掘するのか

――高校時代から注目された選手もいますが、昌子選手(米子北)のように全国的には無名に近い選手もいました。あらためてうかがいますけど、椎本さんはどんな基準で選手を見ているんですか?

「基準は自分の目を信じること。その基準というのは、技術があって、身体能力があってというのはもちろんだけど、何か抜けているところがあるかどうか。昌子は2年のインターハイで見て、センターバックなのにスピード、技術があった。3年生のときにも見て、オファーを決めた」

――今、2年目の安部裕葵選手も瀬戸内高時代、無名に近かったと思います。しかしプロでは1年目から出場機会を得ています。鹿島の10番を背負った本山雅志選手(現在はJ3北九州)のようなセンスを感じます。よく発掘しましたね。

「3年のインターハイで見て、ちょっと驚いたね。タッチのリズムが独特で、周りがしっかり見えていた。へえ、そこも見ているのか、面白いなって気になって仕方がなかった」

――じゃあすぐにオファーを?

「いや、実は同じポジションで先に声を掛けていた選手がいた。まあ結局、その選手には断られたのよ。安部のことは気になっていたんだけど、あっちがダメだったからとこっちに行くのはやっぱり失礼だと思って。でも正直に(瀬戸内高の)先生に伝えたら、“いや、それは縁ですから”って言ってくれて」

――隠すよりもストレートに打ち明けたほうがいい。好きな人への告白みたいなものですね。

「そうかもなあ(笑)。鹿島は変わらないサッカースタイルだから、合う選手だなって思うと、頭から離れなくなる。一般の人だってさ、男性も女性も、好きなタイプは?って聞かれると、言葉で説明できないものだったりするだろ? それと一緒。俺も、どんな選手をスカウトするんですかと聞かれても、言葉じゃ説明つかない。大事なのは惚れるかどうかってところじゃないかな」