「あらいけない、ついいつものくせで! あらあらどうしましょ!?」
筆者は生前、大山さんに何度か取材をさせていただいたことがある。主に『ドラえもん』関係の記者会見だった。何度目かのあるとき、意を決してサインをお願いすることにした。取材記者がサインをねだるのがNGなのは百も承知だったが、長年のファン心理が募っての決意だった。
そこで大山さんが主演を務めた巨大ロボットアニメ『無敵超人ザンボット3』(77年)のDVD-BOXの箱を取材現場に持参した。『ザンボット3』は『ガンダム』で有名な富野由悠季監督の作品で、大山さんは主人公・神勝平を演じている。
取材が終わっておずおずと『ザンボット3』の箱を差し出す自分に、大山さんは「あらザンボット! また懐かしいものを。でもこれもファンの人多いのよね~。いまだに言われるもの」と笑顔でサインペンを手にされた。
私が「すいません、神勝平役と入れていただけますか?」と言うと「ハイ、勝平ちゃんね」と答ええつつ、慣れた手つきでサインペンを走らせた。しかし見ると、「ドラえもん」と書いてある。
「あらいけない、ついいつものくせで! あらあらどうしましょ!? しまった~~。これバツして書き直すからね」と、ドラえもんそのものの慌て方で書き直そうとしてくれた。
しかし瞬時に「これはひょっとして滅多にない貴重なものなのでは」と気づき、こちらも慌てて「いえいえこのままでありがとうございます。これはこれでむしろ貴重ですから」と受け取った。大山さんは「ホントにいいの? でも確かに、ドラえもんの名前が入った『ザンボット3』のあたしのサインって珍しいかも?」と笑って、その横にお名前のサインを入れていただいた。
ザンボットのDVD-BOX見るたびにあのときの大山さんの慌てた声を思い出す。そして同時に砂川さんの「ドラえもんとケンカしたってしょうがない」という言葉を思い出す。DVD-BOXは家宝にしているが、それ以上に生ドラえもんの声を聞かせていただいた感じがして、何ものにも代えがたい体験だった。
大山さん、砂川さんご夫婦のご冥福を心よりお祈り致します。