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ヴァーチャルな「母」との、再会と別れ

――お二人が特に印象に残ったシーンを教えてください。

池松 「母」との再会、そして別れのシーンは、とても印象に残ってますね。ぼく自身、15歳のときに亡くなった大好きだったおじいちゃんと、いまだに脳の中で再会して、対話をしているんです。テクノロジーが、死者との境界線をあまりにも曖昧にしてきていることの怖さと、やっぱり再会して対話できることの喜び――いろいろな複雑な感情がありました。同時代の人たちがまだ誰も到達していないところに、朔也として行ってみて、そこで新しい人間の悲しみを見てしまった、という感覚でした。

平野 いまの再会のシーンは、ぼくもとても印象に残ってます。ちょうど撮影現場へ行ったときに見学した場面なのですが、田中裕子さんがヴァーチャルな人間というものに、一つの新しいチャレンジとして、強い関心をもって演じてくださったことに感動しました。また、VRゴーグルを通して、実体がないのにあるかのように感じてしまう――物哀しさと滑稽さみたいなものを、池松さんのお芝居からリアルに感じられたのも、良かったですね。

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 映像にしたとき、ヴァーチャルな存在と生身の人間が、うまく区別がつくかな、と心配していたのですが、池松さんがたくさん汗をかいて生々しい肉体でもって「朔也」を演じてくれたので、田中さんのヴァーチャルな「お母さん」との対比が、色濃く表れていました。素晴らしかったと思います。

© 2024 映画『本心』製作委員会

――最後に、お二人から一言ずつ、お願いします。

平野 映画公開まで来ることができて、関係者のみなさんに感謝しています。一人でも多くの方に、映画を観てほしいです。そして、池松さんほどの役者がこんなに感動してくれた原作小説のほうも、ぜひ読んでいただきたいですね。

池松 平野さんに会いに行ってから今日まで、ずっと映画というものを尊重し、適切な距離感を保って、応援してくれたことに後押しされました。改めて、ありがとうございます。

 たくさんの、同時代を生きる人たちと、この『本心』を共有していけたら、と願っています。

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映画『本心』 11月8日(金)全国公開
原作:平野啓一郎
出演:池松壮亮
   三吉彩花 水上恒司 仲野太賀
   田中泯 綾野剛 / 妻夫木聡
   田中裕子
監督・脚本:石井裕也
配給:ハピネットファントム・スタジオ
©2024 映画『本心』製作委員会
映画『本心』公式サイト  https://happinet-phantom.com/honshin/

本心 (文春文庫 ひ 19-4)

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平野 啓一郎

文藝春秋

2023年12月6日 発売