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 また、芸術祭で訪れる観光客を輸送することで、現場にも変化が生まれている。勝田交通の下山さんは言う。

「Art周遊バスでもだんだんお客さんのニーズが分かってきて、たとえば井倉洞では新見駅までのバスが出るまで時間が空くんですよね。なので、急ぐ方には駅が近いのでそちらを利用しては、と提案したり。やはり観光で人が来てくれるのはありがたいし、うれしいですよね。

 ウチは路線バスは持たないので、地域交通はそちらにお任せして外からのお客さんを連れてくる。いろいろなところと協力しながら、これからもそういうところに力を入れていったほうがいいのかなと思っています」(下山さん)

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 JR西日本でも、「森の芸術祭」周遊の拠点となる津山駅や新見駅での案内を工夫するなど、現場発のアイデアも活かされている。もともと公共交通の利用者が少ない地域にあって、外部からの観光客によってそうした動きが出てくることは、現場の人たちのモチベーションを高めることにも繋がっているだろう。

施工後(前面・側面) ©JR西日本

「クルマ社会の公共交通」知られざる“生き残り戦略”

 そして、芸術祭を主催する岡山県の実行委員会事務局でも、公共交通による来訪者が増えることを歓迎している。

「私たちも基本的にはクルマ利用の周遊になると予測していました。県北部は県南部に比べると人口も少なく、クルマ社会。公共交通はどこも厳しい経営を強いられています。

 それが今回の『森の芸術祭』では、地元の人の中からも『無料だからせっかくだし乗ってみようか』という人もいるようで。公共交通の良さを改めて知ってもらうきっかけになれば。『森の芸術祭』の大きな目的のひとつに、過疎化が進む県北部の活性化があります。そのためには、公共交通も欠かせないですからね」(岡山県/「森の芸術祭 晴れの国・岡山」実行委員会事務局・横山也仁さん)

©鼠入昌史

「森の芸術祭」はすでに会期のおよそ半分を終えている。観光シーズンということもあって、週末を中心に多くの人が訪れているという。

 Art周遊バスもなかなかの乗車率。拠点ごとの循環バスも、多くの観光客で賑わっている。クルマの運転ができず、公共交通を使ってでもアートを楽しみたい。そういう人は、少なからずいるということだ。つまり、クルマ社会が完全に定着し、利用者の低迷やドライバー不足によって苦境に立たされている地域であっても、公共交通の必要性はいささかも薄らいでいないのだ。

 もちろん、「森の芸術祭」で多くの臨時バスを走らせることができたのは、市町村や中小のバス事業者が“多少の無理を押して”協力をしたからという面があるのも事実だろう。しかし、「森の芸術祭」を通じてJR西日本やバス会社、各自治体の間で深い関係が築かれた意味は大きい。

 これをどう生かしていくかはまだまだこれからのお話。助け合って凌いでいるドライバー不足も、一朝一夕には解消しない。しかし、まずはこうした地域内での密な協力関係を築くことが、解決の第一歩になるのではないか。公共交通を守れるためのヒントは、クルマがなくても、公共交通機関でアート作品会場を巡ることができるように工夫した「森の芸術祭」にあるのかもしれない。