地方の公共交通は想像以上に「本数」が少ない
とはいえ、もともと県北地域の公共交通は、他の地域から観光などで訪れた人が使いやすいようには設定されていない。駅から離れた場所での展示も多い芸術祭を周遊するならなおさらだ。
たとえば、鏡野町と蒜山高原を直結する公共交通は存在せず、いったんバスで鏡野町から津山駅まで向かい、津山駅からJR姫新線で中国勝山駅、そこからまたバスに乗り継いで。
そうした移動は不慣れな人には難易度が高いし、どれも運転本数は少なく、そもそも時間がかかりすぎる。限られた時間で効率的にアートスポットを巡るという芸術祭の楽しみ方にはそぐわない。とどのつまり、既存の公共交通だけでは川田さんの言う「公共交通で3割」を実現することはできないというわけだ。
そこで、芸術祭の実行委員会では、臨時列車や臨時バスを多数仕立てている。
こうした広域を舞台にする芸術祭では、オフィシャルのツアーバスが設定されることは少なくない。もちろん「森の芸術祭」でも同様だ。
そして、加えて時刻表通りにアートスポットを周遊する、Art周遊バス、また津山市や新見市内などを走る循環バスやシャトルバス、岡山駅と奈義町や蒜山を結ぶ直行バスなど、多くの臨時バスを設定した。もちろん、JR津山線や姫新線、伯備線にも臨時列車を運行。それらと臨時に設定されたバスは相互に接続できるようなダイヤを組んでいる。
「そのほかに、既存の路線バスの増便もしています。Art周遊バスやそれぞれの会場行きのバスをうまく使っていただければ、1泊2日ですべての会場を回れるように設定しました。モデルコースとしても、クルマ利用で5パターン、公共交通でも5パターンをホームページで紹介しています」(川田さん)
実際に「森の芸術祭」のホームページを見てみると、実にきめ細やかな公共交通、つまり鉄道とバスによるネットワークが構築されているのがわかる。津山市内を1日8便走るアート循環バスや、満奇洞・井倉洞と新見駅を結ぶシャトルバスは無料での運行。Art周遊バスは津山駅や新見駅で臨時列車と接続するなど、至れり尽くせりだ。
Art周遊バスから路線バスに乗り継いで、といった変則的な巡り方をすることもできる。ちょっと頭を捻って工夫をすれば、クルマがなくても自由自在に芸術祭を楽しめるといっていい。