とっさに「el Hobb(エル ホッブ)」って言っちゃった
――モスタファさんは観光業に従事していたということでしたよね。
HANA でも、待ち合わせ時間になっても他の参加者が来ないんです。彼と私しかいない状態がずっと続いて、普通、ツアーコンダクターなら私に気を遣ってその状況を説明すると思うんですけど、彼はずっと携帯をいじってて何も話さない。
だんだん頭にきて、約束の時間から40分経ったとき、「もう帰ります。キャンセルで」といって怒って帰ったんです。
――当日キャンセルになってしまったと。
HANA そうです。今でも覚えているんですけど、チケットが60ドルだったんですね。それは当日キャンセルだから普通ならお金は返ってこないわけですが、その後、彼が私の滞在先にチケット代を返しに来たんです。
私は「要らないよ」と言ったんだけど、「いやいやいや、受け取って」と言われて。ぶっちゃけエジプトでそういうことってほとんどないんです。
――普通はお金を返してくれるようなことがないと。
HANA お金にゆるいし適当だし、基本的にガメついから、取れるなら何でも取っちゃおうという人が多いんですよ。たとえばこのジュースも(と、目の前の飲み物を指しながら)、エジプト人相手だったら100円だけど、外国人なら1000円で売りつける、みたいな。
そういうエジプトの慣習を知っていたので、わざわざお金を返しに来てくれたことに驚いて、とっさに「el Hobb(エル ホッブ)」って言ったんです。「エル ホッブ」ってアラビア語で「I Like」っていう意味なんです。「I Love」じゃなくて。
――恋人に対してというより、友だちに好意を示すような意味ですかね。
HANA そうです。ただ、エジプトの人は外国人がアラビア語を話すとすっごく喜ぶし、さらに男性に対して「Like」なんて意味の言葉を使ったらもう大変。「この子は僕のことが好きなんだ!」と取られてしまうから、簡単には言えない言葉なんです。
――そういったカルチャーも理解した上で、HANAさんはあえてアラビア語で好意を伝えた?
HANA そう。わかってたんだけど、でも、なんか言っちゃったんです。そうしたら彼が、「フフンッ」て鼻で笑って出て行っちゃって。「あれっ、なんか違う」と思って、そこにまたキュンとしたんです。