2016年10月に東京で起きたバラバラ殺人。50歳のエリート男性はなぜかつて愛した女性を恨み、凶行に至ったのか? 店の客からストーカーにまで転落した前編に続いて、後編では犯行当時の様子、その後の男についてお届け。なおプライバシー保護の観点から本稿の登場人物はすべて仮名である。(全2回の2回目/最初から読む

なぜ24歳女性は残忍な方法で殺されなければいけなかったのか? 写真はイメージ ©getty

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別れた彼女と会うために「女装」して待ち伏せ

 石井は夏美さんが働いていたデリヘルに偽名で予約を入れ、別の女の子から夏美さんの情報を聞き出そうとしたが、夏美さんはすでに店を退店しており、今はコンサルティング会社でOLをしているということが分かった。

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「でも、夏美のことだ。また別の店で働いているかもしれない。それならば自分に返せる金もあるんじゃないか」

 事件前日、石井は何が何でも夏美さんに会って金を返してもらおうと、女装して夏美さんのマンション前で待ち伏せた。何も知らずに夏美さんが帰ってきたので、その後を付いて行ったところ、玄関前で気付かれた。

「ちょっと話があるんだ」
「何で来るのよ」
「終わったらすぐに帰るから」

 夏美さんとしては、廊下で立ち話していると面倒なことになりそうだったので、しぶしぶ中に入れることにした。

 すると、石井は悲惨な現状を話し始めた。

「あの後、会社をクビになってしまって、仕事を探しているんだ。でも、生活費が足りなくて困っている。1年前はオレが夏美を助けてあげたんだから、今度は夏美がオレを助ける番だよね」
「そんなこと言ったって、私も金がない」
「風俗をやってるんだろう」
「もうやってない」
「少しだけでもいい。何とか…」
「ムリ。絶対ムリ!」
「昔は『絶対に返す』『私をOLにしてくれた男の恩は一生忘れない』って言ってたよね。それがまだ1円も返してもらってないじゃん」

 夏美さんは言葉に詰まり、「とりあえず今日は遅いから、また明日話そう」と言って、石井と一緒に横になった。