翌日未明、先に目が覚めた石井はパソコンの前に置かれていたメモを見つけた。
《月目標50万円。週末1日5万円。10日あれば可能》
その近くにコンドームも置いてあったので、店から持ち帰ったものだと分かった。
「こいつ…、まだ風俗をやってるんだな。なのに、何で金がないって言うんだ…」
石井はメラメラと怒りが込み上げ、目を覚ました夏美さんを問い詰めた。
「このメモはどういう意味だ?」
「何勝手に見てんのよ」
「お前、まだ風俗やってんだろ。少しぐらい金返せ!」
「やってないって言ってるでしょ。私のせいでブタ箱に入ったのに、まだ懲りてないの?」
「何ィッ…、謝れ!」
「何で私が謝んなきゃいけないの。私が通報したら、あなた捕まるわよ。謝るのはそっちでしょ」
キッチンにあった果物ナイフで彼女を…
石井はクラクラするほど頭に血が昇り、キッチンにあった果物ナイフで夏美さんを突き刺した。夏美さんの脇腹から、大量の血が噴き出した。「痛い、痛い…」と言い続ける夏美さんを息絶えるまで放置した。
こうなったら失踪に見せかけてなかったことにするしかないと考え、近所の量販店に遺体をバラバラにするための道具を買いに行った。そして、丸一日かけて浴室で遺体をバラバラにした。殺害の痕跡を消すための掃除の時間を合わせると、約30時間もかかった。その間、石井は不眠不休だった。
その後、レンタカーを借りに行き、遺体を詰めるためのスーツケースを購入した。14袋に分けた遺体を詰め込み、携帯電話、財布、バッグ、衣類、パソコンなども持ち去った。
石井はこのまま川に投げ捨てれば、いつかプカプカ浮いてきてしまうのではないかと考え、袋から遺体を取り出し、2つの川に分けて捨てることにした。
血を洗い流すためのミネラルウォーターを準備し、歯型から身許を特定されないように歯を引き抜くためのペンチ、逃走用の靴なども買い揃えて完全犯罪を狙った。のちに捜査関係者は「相当頭のいい男だ」と舌を巻いた。
一方、夏美さんが出勤しないことから、不審に思った上司が自宅を訪ね、警察に通報した。警察は石井と夏美さんのトラブルを知っていたので、すぐに捜査に着手。マンションの防犯カメラの映像から、石井が重要参考人として浮上した。
事件後、石井は妻と離婚し、友人や親兄弟の家などを転々としていた。1カ月近くも逃げ回り、夏美さんの母親にはこんな手紙を送っていた。