9年前に内閣総理大臣を務めながら、いまは引退までの日々をのんびり過ごす武藤泰山(遠藤憲一)。折しも現政権は支持率が低迷し、めぼしい候補者は不祥事ばかり。派閥のドンは、泰山に“とりあえず”総理大臣になるよう指名する。だが、総理就任直後、泰山は秘書の冴島(あの)と心と身体が入れ替わってしまう。盟友の官房長官の狩屋(金田明夫)、書生の田中丸(大橋和也)となんとか乗り切るが、公安の猫田(山時聡真)は驚愕の調査結果を伝えた。〈これから入れ替わる可能性がある相手、それは……全国民です!〉
型破りな総理大臣の父と、気弱な息子が入れ替わる、池井戸潤さん原作の政治コメディ「民王」が、9年を経て、「民王Ⓡ」として帰ってきた。再び泰山を演じる遠藤さんは、「毎回入れ替わるって面白い!」と興奮したというが――。
「いざ取り組むと試行錯誤の連続ですね。前作で泰山を演じたのは息子役の菅田将暉君で、俺は泰山をほとんど演じていなくて。気弱な息子を思い出してしまい苦労しました」
これまで泰山が入れ替わったのは、女性秘書、闇バイトの男、5歳児(!?)。年齢も性別も立場も違う人を演じ分ける演技巧者だが、「もう俺には引き出しはない」と嘆き節だ。
「近々、入れ替わる予定の中学生はさっぱりわからなくて、『14歳の栞』というドキュメンタリー映画を見つけて、なんとか感覚を掴みました。あとは入れ替わる相手の役者さんと台本の読み合わせをして、相手の口調や姿勢を掴むしかない。さすがに5歳児役の子とはやりませんでしたけど、眉間に皺を寄せて泰山を演じる彼の横で、『ママー!』とうろちょろする5歳児を演(や)ったのは恥ずかしかったなあ(笑)」
見ず知らずのふたりが入れ替わり、戸惑いながらも、互いのために奮闘するうちに、不思議な紐帯が生まれていく。それは本作の見どころだ。
「入れ替わって泰山は、国民が抱える課題に気付く。そして若者の孤独と貧困、子育てするお母さんの現実が見えて、世の中を良くしようと行動を始めるんです。これは泰山の成長の物語でもある。はっちゃけているばかりでなく、シビアに演じていきたいですね」
多くを学んだという遠藤さんに「総理大臣と入れ替わりたいか」と尋ねると、
「俺がやったら国が滅びますよ(笑)。でも、総理大臣は一度は演じてみたい役。役者冥利に尽きますね。60歳を過ぎて、こんな変化に富んだ役をいただけて感謝の気持ちでいっぱいです。俺ももういっちょう頑張ろうと燃えてます」
そしてやや思案して、言うなと言われているんですけど……と意外な答えをくれた。
「女房とは入れ替わってみたいかな。ポンコツなんで、家ではよく注意されるんです。女房は俺をどう思ってるのか、ちょっと覗いてみたいですね」
えんどうけんいち/1961年、東京都生まれ。1983年、ドラマ「壬生の恋歌」でデビュー。NHK連続テレビ小説「てっぱん」(10年)、ドラマ「湯けむりスナイパー」シリーズ、「ドクターX~外科医・大門未知子~」シリーズ、「民王」(15年)、「ミステリと言う勿れ」(22年)、映画『首』(23年)など出演作多数。
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ドラマ「民王Ⓡ Inspired by 池井戸潤」
テレビ朝日系 毎週火曜よる9時
https://www.tv-asahi.co.jp/tamiou/