「“ニュー栄子”をお見せしたいと思います」

 小池栄子がこうコメントしたのは2022年、NHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で北条政子という大役を演じきったときであった。最終回に向けての合同取材会で小池栄子はこう語った(筆者も取材会に参加した)。

小池栄子

「『鎌倉殿〜』をやったことでたくさん私の芝居の課題が見つかりました。大河ドラマのいいところのひとつは、たくさんの方と共演できることで、ベテランの方々のお芝居を見て、長年研鑽を積んできた仕草や台詞回しに触れて、やはり気持ちだけでは生き残れない仕事であって、10年後に残るためには鍛錬しないといけないと痛感しました。これから精進して来年以降“ニュー栄子”をお見せしたいと思います」(「TV Bros. WEB」2022年11月27日 小池栄子「ラストシーンの台本を読んで放心状態みたいに…」【鎌倉殿の13人・不定期連載】より)

 それから2年――小池栄子は“ニュー栄子”になったのか。放送中の医療ドラマ『新宿野戦病院』(フジテレビ系 脚本:宮藤官九郎)と配信中のNetflix『地面師たち』がその試金石となる。結論から言って、“10年後に残るための鍛錬”が着々と行われていたといっていいのではないか。小池栄子はまだまだ進化している。

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『新宿野戦病院』で長瀬智也不在の“穴”を埋めた

 まず、『新宿野戦病院』である。宮藤官九郎がはじめて挑む医療ドラマとして注目されたこの作品で小池は仲野太賀とW主演している。英語と岡山弁のバイリンガル(?)の医師ヨウコ・ニシ・フリーマンという役は、俳優として百戦錬磨の小池栄子にとってもかなりのチャレンジであっただろう。

『新宿野戦病院』公式Xより

 アメリカの軍医として戦場で医療に従事していたヨウコは、完璧なアメカジファッションで、歌舞伎町を闊歩し、座るときも大股開きのワイルドなキャラである。この設定に当初、長瀬智也を重ねる視聴者が少なくなかった。

 長瀬智也は『池袋ウエストゲートパーク』(00年 TBS系)から『俺の家の話』(21年 TBS系)まで宮藤作品に欠かせない主演俳優であった。圧倒的な熱量と少しおばかになれる愛嬌は唯一無二だったが惜しまれつつ表舞台を去った。引退していなかったら長瀬が『新宿野戦病院』の主人公になったのではないかと想像する宮藤ドラマファンがいても無理はなかった。

 小池栄子は幸か不幸か長瀬智也的なボーン・トゥ・ビー・ワイルドなものを期待されてしまったのである。おりしも、ジェンダー平等の時代、失敗しない強気の女性医師もの『ドクターX〜外科医・大門未知子』(テレビ朝日系 脚本:中園ミホ)が圧倒的に支持されたテレビドラマ界で、小池栄子演じるヨウコの、スカートを穿かないワイルドな女性の軍医は新機軸であった。結果的に、小池栄子は長瀬智也の不在の穴を埋めることができたと言っていい。女性だって型破りの熱苦しいほどの主人公ができることを証明してみせたのである。