2018年のデビュー以来、めざましい活躍を続ける人気俳優の水上恒司さん。このほど公開される映画『本心』では、主演の池松壮亮さん扮する〈朔也〉の幼馴染で、物語のキーパーソンの一人でもある〈岸谷〉を演じる。平野啓一郎さん原作、石井裕也さん監督・脚本による今季最注目の本作。水上さんの感想は……?
「一生懸命に生きていると、人は時々自分の本心すらわからなくなります。本作では登場人物それぞれが、そんな自分に向き合っていく。その姿が、僕には面白かったですね」
自身の役柄については、「岸谷も、やっぱり一生懸命です。だから生きるために危ない方向へも躊躇なく寄って行ってしまう――。でも、そんな彼を僕は悪い人間だと思って演じてはいません。不器用で一生懸命な、今の若者を象徴するキャラクターです」と語る。
物語の舞台は、近い将来の日本。朔也と岸谷が勤めていた工場はロボット化の波に押されて閉鎖に。そこで2人はカメラが搭載されたゴーグルを装着し、遠方にいる依頼者の分身として動く「リアルアバター」の仕事を始める。そんななか朔也は、岸谷の紹介で、AIを駆使して仮想空間上に任意の人間を作りだす「VF(ヴァーチャル・フィギュア)」という技術を知る。そして、1年前に亡くなった母(田中裕子)をVFで甦らせ、生前に「自由死」を選択していた母の“本心”を聞き出したいと、開発者の野崎(妻夫木聡)を訪ねるのだった――。
「僕自身は、VFで誰かを作りたいとは思わないですが、俳優という仕事自体、本当はそこにいない人物を演じているわけで……。自分はAIとはあまり縁がない生活を送っていると思っているのに、その共通点がちょっと不思議ですね(笑)」と水上さん。
それにしても共演者は錚々たる顔ぶれ。特に池松さんに影響を受けたと振り返る。
「池松さんは、ちゃんと“そこに存在している”からすごいんです。しかも、肉体と精神とを伴って。これって誰にでもできることじゃない。この池松さんの〈朔也〉をどうしたら動かせるのか? どうすればその自信を持ってカメラの前に立てるのか。そんなことを考えるようになりました」
そうして迎えたクランクアップ。水上さんが寄せたコメントが意味深だ。“なんとも消化が悪くて心地良く、とても嬉しかった”とある。その真意を問うと、まっすぐな瞳でこう答えてくれた。
「個人的に、これでやりきった、満足だと思っているのは、いい仕事ではないという感覚があるんですね。だって、たかだか25年しか生きていない自分に、世の中のすべてが分かるわけがない。だから、作品の中で、今の自分には消化しきれないこと、わからないことに出会うと、自分の伸びしろというか、まだまだ成長できる余地があることが肌で感じられて嬉しくなるんです。今は、一人でも多くの尊敬する先輩方と共演したり接する中で、いろいろなことを受けて、感じたい。そして引き継いでいけたらと考えています」
みずかみこうし/1999年生まれ、福岡県出身。2018年、ドラマ『中学聖日記』で俳優デビュー。20年『弥生、三月-君を愛した30年-』で映画初出演。翌年、第44回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。22年9月からは本名の「水上恒司」で活動。23年公開の『あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(W主演)で第47回日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。現在公開中の『八犬伝』にも出演している。
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映画『本心』
11月8日公開
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