絵本『ぐりとぐら』の作者として知られる中川李枝子さんが、10月14日に89歳でお亡くなりになりました。

 文春文庫では、かこさとしさん著『未来のだるまちゃんへ』で中川さんに解説をお願いしたり(かこさんと中川さんお二人の邂逅秘話)、中川さんの名訳が素晴らしいアンネ・フランク著『アンネの童話』を新装版として復刊。そして2018年には、妹・山脇百合子さんの可愛い絵が満載のエッセイ『本・子ども・絵本』を、秘蔵写真をたっぷり追加して文庫化しました。

 中川さんの担当編集者Iさんが、初めてお会いしたときの思い出を、追悼と感謝の気持ちを込めて綴ります。

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中川さんが翻訳した『アンネの童話』を手に。「アンネ・フランクが隠れ家で書いた童話やエッセイはとても瑞々しいの」(中川さん)自宅のリビングには、教え子やファンからの贈りものが大切に飾られている。 写真:杉山秀樹(文藝春秋写真部)

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 最初にご自宅に担当編集者としてご挨拶にお伺いしたときは真夏の暑いさかりだったのですが、なにしろあの、幼い頃から読んでいた本の作者である「伝説の」中川李枝子さんに初めてお目にかかるということで、中川さんが間違えてエアコンで暖房をつけていたのに、緊張のあまり何も言い出せず、汗グダグダでお話ししたことを覚えています。

 でもその日、私がおいとましてご自宅をひきあげようとすると、帰り道を心配して、家の外まで出てきて「あそこを右へ曲がると、バス停があるからね。気を付けて帰って!」と案内してくださったのです。「あぁ、きっとしっかり者で優しい保育士さんでいらしたのだなあ」と心が温まりました。

「『ぐりとぐら』のかすてらは、『ちびくろ・さんぼ』のホットケーキがヒントになったのよ」(中川さん)。 写真:杉山秀樹(文藝春秋写真部)

 本づくりで仕事をご一緒しているときも、その後もずっと、とてもチャーミングでとにかく子どもが大好き、気取らず気さくなので安心して話せる方、という印象は一貫して変わりません。