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 劇中ではWebドラマ、恋愛リアリティショー、2.5次元舞台、情報バラエティといった番組制作の内幕が次々と描かれるのだが、一番生々しく感じたのが、ドラマや2.5次元舞台の原作を提供する側である漫画家の苦悩だ。

 売れっ子漫画家の鮫島アビ子が描いた「東京ブレイド」が舞台化されることになる。しかし何度言っても修正が反映されずに逆に内容が悪化していく脚本にNGを出して、脚本家を降板させて、自分が脚本を書くと言い出す流れや、その対応に追われる演出家や出版社の対応はとても生々しかった。

 異常な説得力が宿っていたのは、漫画家の作者にとってもっとも身近で切実な問題だったからではないかと思う。

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鮫島アビ子先生 公式YouTubeより

暴走するファンダムの炎上こそが最大の力点だった

『推しの子』の中心にあるのは、若手の俳優やアイドルの抱えている苦悩だが、背後にあるのが、運営とファンの間で引き裂かれて傷ついている若手タレントたちの立場の弱さだ。それがもっとも色濃く現れていたのが、第3巻で展開された『恋愛リアリティショー編』。

 恋愛リアリティショー「今からガチ恋始めます」の収録中に出演者の1人に怪我を負わせてしまった女優・黒川あかねは、視聴者から激しいバッシングを受け、SNSが大炎上する。

 ショックを受けた黒川は精神的に追い込まれて自死を選ぼうとするが、アクアに助けられる。黒川への批判を消すため、アクアは出演者の仲の良さをアピールする動画を出演者と共同で制作するのだが、番組制作者と視聴者の間で出演者の若いタレントたちが煽られ、酷いプレッシャーに晒されている現実を本作は丁寧に紐解いていく。

「恋愛リアリティショー編」が興味深いのは、出演者同士の争いでも、プロデューサーやディレクターといった大人の制作者と出演者の対立でもなく、暴走するファンダム(特定分野の熱心なファンたち)をどうやって沈めるのか? という問題に力点が置かれていたことだ。

 大人(運営、テレビ番組制作者)の事情に振り回される子供たち(アイドル、タレント)という対立なら昔から存在する芸能界の残酷物語だが、ここにファンダムの炎上という新しい要素が加わっているのが、令和の芸能界を舞台にしている本作の新しさだろう。