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面接官およびメンターとしてのtimelesz

 優れたエンターテイナーの怜悧な思考とアクションは時に優れたビジネスパーソンのそれと重なるが、タイプロにおけるtimeleszの3人の姿もまさにそういった角度から語られるべきものである。それゆえ、不用意な発言によって詰められてしまったタイプロの候補者を反面教師にすることで、就職や転職活動の採用面接における心構えを読み解くことも可能だ。

 たとえば、2次審査の面接で「まだ掴めていない本物の景色を掴みに来ました」と発言した候補者に対して菊池が「本物の景色とは何ですか」と突っ込んだシーン。結局その質問に対する明確な回答は得られなかったが、曖昧な表現で自身の内面を語った場合、経験豊富な面接官であれは必ずそこを深掘りしてくる(昨今の採用面接で語られがちな「成長したい」という志望動機もこれにあたるだろう)。具体的にそれは何なのか、今回のケースであれば「本物ではない景色」とどこがどう違うのか、決まり文句で思考停止せずに突きつめたうえで面接に臨むことの重要性をこの場面は示唆している。

菊池風磨 ©文藝春秋

「絶対に負けたくないと思っている」と言いながら、応募書類の記載量の少なさやグループ名の表記ミス(“T”imeleszと1文字目が大文字で書かれていた)を指摘されていた候補者についても同様だろう。「『絶対に負けたくない』とは?」と思われたらその時点でゲームオーバーである。

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 加えると、突きつめるべきは自身の内面だけでなく、相手側への理解についても同じことが言える。今回のオーディションにおいても、timeleszの活動や歴史をあまりよく知らない候補者が複数見られた。松島が「我々timeleszのことって知ってくれていますか?」、佐藤が「(デビュー曲のタイトルがわからなかった候補者に)デビュー曲はグループ名と一緒だから」と語りかけるのは、知識の多寡以上にどれだけ自分たちのことを知ろうとしてくれているかの姿勢の確認でもある。

佐藤勝利 ©文藝春秋

 書類にEXILEが好きなことを記載して菊池から「だったらLDHの方がいいんじゃないかなと思っちゃうんですけど……」と言われて絶句していた候補者もいたが、たとえばアサヒビールの面接で「キリン一番搾りがずっと好きです」と述べている場面に置き換えればその迂闊さがわかるだろう。企業によっては選考基準として志望動機よりもスキルを重視することも決して珍しくはないが、最低限なぜその面接を受けているか相手目線で語れるくらいの配慮や想像力がないと、その候補者を採用したいと考える面接官はあまりいないと思われる。

 また、3次審査では候補者がそれぞれの殻を破れるように3人が厳しいフィードバックを送りつつ、最終的には候補者たちと共に感情を高ぶらせるシーンもあった。特にエピソード5で描かれたteam GREENへのサポートでは、単なる審査員としての距離感を超えて、ともに挑戦を楽しみ、候補者が成長することを喜ぶ姿勢が垣間見えた。この一連の流れは、厳しさと温かさのバランスがいかに重要であるかを示すものであり、人材育成で求められる普遍的な姿勢でもある。

 何かを達成するために仲間を探し、その仲間と一緒に大きなゴールを目指す。芸能界に身を置かなくても、多くの人が体験し得るシチュエーションだ。タイプロは、そんな場面に直面した我々がどう振る舞うべきか、エンターテインメントを通じて伝えてくれる魅力的な“教材”である。