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録音するブース内で涙を流しながら原稿を読んでいた

――町田アナウンサーは日本テレビの公式HPの「リレーエッセイ」の中で、若い頃に比べるとご自身が涙もろくなったと書かれています。

町田 20代、30代の頃の実況は、いま目の前で起きていることをどう伝えたらいいのか、どういう言葉がふさわしいのか、そういうことにすごく頭を使っていたので、特にスポーツ実況では目の前の出来事に対して自分の感情を置き去りにして、変に冷静になっていたんです。だけど最近は、箱根駅伝100回記念のナレーションを担当したときも、感極まってナレーションを録音するブース内で涙を流しながら原稿を読んでいました。

 50代に入ってからもう駄目ですね、こんなに一気に涙腺が弱くなるとは。でも理由が少し分かった気もするんです。歳が選手たちの親世代に近くなったので、我が子のように選手たちを見てしまっているのかなと。これまでとは違った目線で選手の頑張りを声で伝える。そういうふうに考えると、それもまたいいのかなと思っています。

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 私は学生時代、体育会のバスケットボール部に所属していました。毎日練習があったので、夏休みは旅行に出かけたこともなかったし、母校である早稲田の学園祭を見たこともありませんでした。多くを犠牲にしながら、とにかく競技に打ち込んでいました。やはりそういう所は、選手と自分の学生時代を重ねたりしましたね。『俺たちの箱根駅伝』を読んでいて思い出したことがあります。いいチームを作るにはどうしたらいいか、チームとしての課題をどうやって解決するか、自分は部のために何ができるか、こんなことを私も同期といろいろと話し合った経験があります。

 でも、何を優先してやるべきだったのかというと、答えは小説内で諸矢前監督が言った言葉にありました。「チームにとって一番大切なものは何だと思う。……信頼だ。チームメイトを信じろ」まさにこれだったんじゃないかと。いま思うと、ことあるごとにミーティングは何度もしました。でも、先輩や後輩も含めてもっとチームメイトを信頼し、信頼してもらえる努力をしていれば、さらにいいチームになったかもしれないと、30年たって改めて当時を思い返しています。小説内に出てきた「他人を認めるより、否定する方がはるかに簡単だ」という言葉も心に刺さって、こんな指導者がいれば確かにチームの結果も付いてくるはずだ、と納得もさせられました。

 

 いま箱根駅伝はどんどん高速化していますし、トレーニング環境の進化も目覚ましいものがあります。「あれをしなさい、これをしなさい」と選手への一方的な指導ではなく、選手の個性を十分に認め、選手が発してくる感情や思いを受け止めながら、自主性をうまく育てていく、そんなタイプの指導者が増えていると感じます。

 そして、箱根駅伝を応援してくださる方の熱は、これだけスポーツや娯楽のコンテンツが多様化している中でも相変わらず高くて、毎年、有難いことに本当にたくさんの方々が番組を応援してくださっています。輝かしい青春時代の全てを陸上に注ぎ、壮大で過酷な箱根路に果敢に挑む、けれん味のない選手たちです。心清らかに迎えたい日本のお正月に家族が集まって、感情移入しながら純粋に選手みんなを応援したい。そんな気持ちにさせてくれるのが箱根駅伝の魅力かなと思います。