今村 今回の青崎さんの「縄、綱、ロープ」の中に、「既存の小説のキャラクターを作者以外の誰かが著述することは、できると思うか?」というアリスと火村の問答があって、ニヤリとしました。
青崎 そこも、火村シリーズってよくこういうことやるよな、という既刊の要素を拾った結果です。
今村 ああ、なるほど。ありそう。
青崎 既刊を研究し、このオチも、要素を拾いつつ考えました。
織守 ですよね。私、結末の一行を読んだ時、「本家っぽい!」と思って、すっごいテンションが上がって。
青崎 よかった(笑)。それが自分なりの愛の伝え方かな、と。
今村 本当に有栖川さんの短編集に入っていても気づかないかもと思いましたよ。それくらい完成度が高い。
青崎 頑張ったんです(笑)。編集者の助けを借りて、漢字の使い方も全部『捜査線上の夕映え』に合わせたり。
僕は、狙って本家に寄せていったわけですけど、今村さんはどうでした?
今村 僕も、基本的には寄せる方向で考えて、江神が言わないようなことは絶対に言わせないという意識で書いたんです。ただ、同時にこれは有栖川さんじゃない人が書いた江神だと見られたほうがいいという思いも心のどこかにあって。それでスマホを登場させたり。
青崎 本家は時代が固定しているから、絶対に出せないアイテムですよね。
今村 他にも、学生会館のラウンジではタバコが吸えないようにして、江神がわざわざ喫煙所に行って吸う描写を入れたりもしています。織守さんはどう考えました? 本家との距離感は。
織守 私は、キャラクターはなるべく本家に寄せて、キャラクター同士の距離感も本物っぽくしたいなと思っていました。火村は初対面の相手にはこういうことは言わないだろうとか、アリスは口には出さないけど、時々シニカルなことを考えたり辛辣(しんらつ)なツッコミを入れたりするから、地の文だったらこの辺までは許されるかなとか、すごく悩みました。
内容面では、今村さん、青崎さん、白井(智之)さんは絶対本気の本格ミステリを書いてくるだろうし、一穂(ミチ)さんはおそらく日常の謎、人が死なないミステリで、エモーショナルな感じでくるんじゃないかと想像して、このメンツで私がカラーを出すなら、ホラーっぽい要素を入れようと。本家っぽい二人で、でも本家ではやらないようなことをやろう、と試みました。
今村 どんなに寄せても、書いた人らしさって出ますよね。織守さんの「火村英夫に捧げる怪談」は、ネタごとに謎の解かれ方にバリエーションをもたせているのが面白かったです。不可解な現象に論理的な説明をつけるものから、本家の火村シリーズではなかなか見られない怪談の解釈へと発展させるものもあり、最後は別作品の某人物の登場まで示唆して……。
青崎 そう! 火村が学会で上京しているという設定がちゃんと生きていて、なるほどなと思いました。