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全46段のうち3つの段に「地雷」を仕掛け…女子高生“勝負師”が挑むギャンブル「地雷グリコ」とは

著者は語る 『地雷グリコ』(青崎有吾 著)

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『地雷グリコ』(青崎有吾 著)KADOKAWA

 高校生が“ギャンブル”をする。挑戦するのは、誰もが知る遊びにいくつかのルールが追加されたオリジナルゲーム「地雷グリコ」「坊主衰弱」「自由律ジャンケン」「だるまさんがかぞえた」「フォールーム・ポーカー」。本格ミステリ界の俊英、青崎有吾さんがこのたび上梓した『地雷グリコ』は、小説としてはあまり類書のない作品だ。しかも痺れるぐらい面白い。

「僕は『嘘喰い』『カイジ』といったギャンブル漫画が好きなんですが、そうした全編オリジナルゲームが登場するような作品は、小説だとあまりない印象がありました。自分でも書いてみようと思ったんです」

 本作の主人公、頬白(ほおじろ)高校1年の射守矢真兎(いもりやまと)は勝負事に強いと評判だ。そんな彼女が、文化祭での屋上使用権や、カフェの出禁解除などを賭けた対戦の場に引っ張り出されて物語は進む。

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「僕はギャンブル漫画をミステリとして読んでいるところがあって。理詰めで相手に迫ったり、あるいは相手を騙したり。こう伏線を張って、こうひっくり返して……謎解きで一番大切なのはロジックだと思っていて、ギャンブル漫画にも根底に同じ要素がある。この本もギャンブル漫画的なものを目指しつつ書いたんですが、ミステリの特に美味しい部分を味わえる一冊にもなっていると思います」

 例えば、「地雷グリコ」。じゃんけんをして先に階段を上り切った方が勝ちのグリコで、全46段のうち3つの段に、相手がその段で止まったら10段後退させられる「地雷」を仕掛けられるとしたら――。いずれのゲームでも熾烈な頭脳戦が展開され、鮮やかな勝ち筋の数々が披露される。

「ベースとなるルールを決め、そのルールで何ができるのか、どうやって逆転するのかを考え、逆算して合間を埋めていくような書き方をしました。それは普段ミステリ作品を書くときも同様で。まず謎があってトリックはそれから。下手な鉄砲なんとやらで、色々な案を出して良さそうなものを選んでいくんです。今回も論理的に詰められるまで詰めて、主人公が幸運に恵まれて勝つといったことはないように意識しました」

撮影:鈴木慶子

 主人公、真兎のキャラクターも特別に魅力的だ。作中、いくつものゲームに挑む彼女は〈真兎にとって、ゲームって何?〉と訊かれ、〈ゲームあんまりやんないから、わかんない〉と答える。〈人生はゲームだなんてふざけたこと抜かすやつを信じちゃだめだよ〉とも。

「彼女は全部が全部、勝負だと思っている人。これは遊び、これは勝負と物事を区切ってないんです。そう言うといつも気張っている人のように聞こえますが、常にその感覚があるので、それが自然体になっているイメージです。気構えだけは心の奥に秘めている、というか」

 そんな彼女の生き方があるから、本作で描かれる勝負には説得力がある。“勝負師”としての姿には不思議と勇気まで貰える。

「ギャンブルを描いた作品って、勝負に自分の命など大きなものが賭けられていないと、なかなか緊迫感が出ない。そこの温度差を埋めるのには苦労しました。ただ、どのような勝負であっても、誇りとか尊厳とかそういったものが懸けられていて、すでに自分の中でのプライドの閾値みたいなものを超えてしまっていたら、モチベーションとして賭けられているものの大小はもはや関係ないのではないか、と。主人公はそれが全てにおいてというわけなんですが、もしかしたら僕たちが生きる現実世界でもそういう場面ってあるんじゃないかと思っています」

あおさきゆうご/1991年、神奈川県生まれ。明治大学卒。2012年に『体育館の殺人』で第22回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。著書に『アンデッドガール・マーダーファルス』『ノッキンオン・ロックドドア』『早朝始発の殺風景』『11文字の檻』など。

地雷グリコ

地雷グリコ

青崎 有吾

KADOKAWA

2023年11月27日 発売

全46段のうち3つの段に「地雷」を仕掛け…女子高生“勝負師”が挑むギャンブル「地雷グリコ」とは

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