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「正直言って、売れるとは思っていた」筒井康隆(89)が語る、“最後の作品集”が本当に売れたワケ

著者は語る 『カーテンコール』(筒井康隆 著)

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『カーテンコール』(筒井康隆 著)新潮社

 60年以上にわたり数々の傑作、話題作を生み出し、今年89歳を迎えた筒井康隆さん。最新作『カーテンコール』は「これがわが最後の作品集になるだろう」と宣言された掌篇集だ。

「書きながら、これが最後だなとは思っていました。(原稿用紙)10枚以上はもう書けないし、たまにいいアイディアを思いついても、既に自分で書いてしまってるんでね」

『時をかける少女』『富豪刑事』『パプリカ』など筒井作品の登場人物たちが入院中の「おれ」のもとにやって来る「プレイバック」は、筒井ファンには堪らない1篇。『文学部唯野教授』の唯野教授は批判めいて〈あんた掌篇集を最後に出して儲けるつもりだろ〉と言うが、実際に本書は刊行後すぐ話題になり、何度も重版がかかった。

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「ずるいですよね、もうこういう手法しか手がないんです(笑)。正直言って、売れるとは思っていました。いろんな種類の作品が、10枚に凝縮されてずらっと並んでるわけですから」

 そう語る通り、収められた25篇はSF、メタ、ブラックユーモアにスラップスティックコメディなど多彩だ。美しい娘と巨大な白蛇をめぐる「白蛇姫」では、「歩兵の本領」「軍隊小唄」「戦友」などの軍歌が猥雑な替え歌で歌われ、集落が羆に襲われる「羆」は、逃げ惑う男の語りだけで描かれる。森の中の居酒屋で懐かしい人と再会する「お時さん」や、アングラ女優が20年振りに一夜限りの舞台に立つ「宵興行」は、どこか妖しく幻想的だ。

筒井康隆さん

「若い人は、替え歌の元になっている軍歌は分からないでしょうね。『お時さん』は、霧立のぼるという美しい女優が出ている古い映画『兵六夢物語』のワンシーンが忘れられずに書いた一篇です。ちなみに『宵興行』で歌われているのは「一族散らし語り」(『繁栄の昭和』収録)の中で書いた歌で、2回目の登場であることをお断りしておきます」