「記憶屋」シリーズ、『黒野葉月は鳥籠で眠らない』、『花束は毒』など、ホラーとミステリのジャンルで多くの作品を生み出してきた織守きょうやさん。今回、自身初の時代小説である『まぼろしの女 蛇目の佐吉捕り物帖』を上梓されました。新米の岡っ引きが江戸で起こるさまざまな殺人事件の謎を追う、という内容の本作、織守さんにとっては初の「本格ミステリ」でもあって……。創作秘話をたっぷり伺いました。

 

――最新刊『まぼろしの女』には、時代ものでしか描けないトリックがいくつも出てきます。織守さんには、もともと時代小説に挑戦してみたいという気持ちがあったのでしょうか。それとも、江戸時代でしかできないトリックを思いついたので、時代ものを書くことを決めたのでしょうか。

織守 もともとは後者だったんです。1話目の「まぼろしの女」のトリックを考えついて、これをやるんだったら、時代は現代じゃないほうがいいだろうと思いました。舞台もいろいろ考えたのですが、最終的に「江戸時代だな」と。そこに合わせてやるしかないと決めて、江戸ならではの要素を足していきました。せっかくそういう風に始めたシリーズだから2話目以降にも同じような驚きが欲しいし、1話目と地続きの世界観でやりたいなと思って、自分の首を絞めた感じです(笑)。

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――初めての時代小説、どのような部分に大変さを感じましたか?

織守 風景や周囲にある小道具なども現代とは違いますし、着物だから動きも変わってきたりする。さらっと描きたいキャラクターの行動でも、一回一回立ち止まって考える大変さはありましたね。台詞も、時代性と読みやすさの案配を考えながら書くのは、今までにない経験でした。