社会のなかで見逃されている「歪み」を書きたい
――本作には、まさに「女」という言葉が入っている表題作だけでなく、収録されているどの作品にも、起こった事件に大きく関わり、物語を動かす女性が登場します。織守さんの作品には、信念と覚悟をもって行動する女性が多いように感じます。
織守 普段あまり意識はしていませんが、この作品では特にそうなっているかもしれません。社会のなかで見過ごされているけれど、確実にそこにある「歪み」のようなものを書きたくて、そうなると、江戸時代だからこそ「女性」がさらに際立ってくる。それによって自然に、女性の覚悟とか意地というものが強調された側面はあるかと思います。
――さらに、『まぼろしの女』は、織守さんの作品のなかではじめて「本格ミステリ」を前面に打ちだした作品でもあります。織守さんのなかの「本格ミステリ」の意味合い、位置づけを教えてください。
織守 人によって定義はいろいろあると思うのですが、まず私の中では、謎があって、その謎の解決を主眼とした話が狭義の「ミステリ」だと思っています。そこからさらに「本格」をつけるとなると、「推理によってそれを解き明かす」という要素が入ってくると思うんですよね。私が過去に書いた作品でも、謎について登場人物が推理したり、最終的にそれが解明されたりはするんですが、純粋に推理によって真相へたどり着いているか、というとそうではないものも多い。今回はすべての短編で事件があって、謎があって、岡っ引きの佐吉と探偵役の秋高が手がかりをもとに議論しながらそれを解き明かして真相にたどり着くという展開になっているので、本格ミステリと言っていいのではないかと思っています。
――結果として、収録作の「消えた花婿」はミステリとして高く評価され、推理作家協会賞の短編部門にもノミネートされました。
織守 ミステリ作家として認めてもらえたようで、とても嬉しかったです。今までちょっとドキドキしながら「本格ミステリ」と言ってきたんですが、私の「本格」は間違っていなかったのかな、という自信になりました。今作は、時代小説が好きな方にも本格ミステリが好きな方にもそれぞれ楽しんでいただけるものを目指しました。手にとっていただけたら嬉しいです。