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市橋達也、逮捕の瞬間
「何も暴れることなく静かに出て行ったってよ。その日は沖縄行きのフェリーは波が高くて、定時に出なかったのよ。それと何でか知らんけど、防犯カメラの前にずっと座っていたのよ」
私が南港ターミナルを訪ねた時、待合室は改修中で市橋が座っていたベンチは無くなっていた。ただベンチがあった場所の前には防犯カメラが未だに据え付けられていた。
果たして逃亡の疲れから、防犯カメラに気がつかず寝入ってしまったのか、それとも既に逮捕を覚悟して、警察が来ることを待ち続けていたのか。捜査員の「市橋か?」の言葉に市橋は自宅マンション前から裸足で逃走した時とは打って変わり、静かに頷いた。こうして市橋被告の逃亡劇は静かに幕を下ろしたのだった。
市橋の逃亡生活を見てみると、他者との交わりを断ち、海外逃亡を試みたりと何とか逮捕から逃れ、己を守ろうという自己防衛本能だけが目立つ。彼の足跡を辿った者として、何とも言えぬ虚しさだけが心の中に残っている。
