2007年、イギリス人英会話講師のリンゼイ・アン・ホーカーさんを殺害したのち、逮捕を逃れるために大阪の西成区にその身を潜めた犯人の市橋達也(45歳)。突然表れた、素性の知れない男を西成の人々はどう見ていたのか? 当時の市橋の暮らしぶり、そして逮捕の瞬間を、ノンフィクション作家の八木澤高明氏の新刊『殺め家』(鉄人社)より一部抜粋してお届けする。(全2回の2回目/最初から読む)

殺人犯・市橋達也の逮捕を願うリンゼイ・アン・ホーカーさんのご家族 ©getty

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「最初からおかしいなっていうのは、わかってたんや」

「俺が連れてって、俺がずーっと面倒見て来たんや」

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 そう語る男はどこか懐かし気に語り出した。

「最初からおかしいなっていうのは、わかってたんや。わしらも何年もこの仕事をやっているからな。人から隠れるようにしてから、何か悪いことしてきたんだろうなぁって。毎日現場にも連れてって、おとなしくてよう仕事もするから、ボーリングにもわしが無理矢理連れて行ったんや。それしてもうちらにしたら大概やったでぇ、取引先にもどんどん取材が行って、現場が困るからって、取引やめるって言われて。大損害や」

 建設会社で働いていた当時、西成に隣接する一大風俗街飛田に通っていたという報道もあるが、その点に関しても男性は言う。

「休みの時はよく行ってたみたいやでぇ。沖縄出身の男と仲が良くて、そいつには良く話していたみたいやぁ」

 ちなみにこの建設会社は、市橋が整形手術前に潜伏していたことを警察に連絡していたにもかかわらず、一切の報奨金を受け取らないどころか、取引先にマスコミが殺到したことにより、取引を打ち切られるなど正しく大被害を被っている。

 名古屋の整形外科で鼻や目の手術をしたことが発覚し、一気に追いつめられた市橋被告は、2009年11月10日大阪南港フェリーターミナルで那覇行きのフェリーを待っているところを通報される。ターミナルの売店で働く、女性従業員が言う。