物盗られ妄想や暴言
徘徊だけではなく、物盗られ妄想や暴言もまた、介護をする家族を悩ませる周辺症状だ。
夫と死別して家を守ってきた良枝さん(仮名)は70歳を過ぎた頃から物忘れがひどくなった。
「良枝さんの物忘れがひどいため、お嫁さんが『さっきも言ったでしょ』と叱ることが増えていきました。すると、良枝さんが怒ったり、『あんた私の財布を盗んだだろ』と決めつけてくるようになったといいます。孫が制止に入っても、『おまえも盗人だ』と鬼のような形相で凄んだそうです」(同前)
認知症が進むと、財布などを置いた場所を忘れ、「盗られた」と勘違いしてしまうことが増える。その場合、家族を犯人扱いして、暴言を吐くケースも多い。
「徘徊や物盗られ妄想の背景は似ているそうです。性格でいえば、気が強くて勝ち気な人は、妄想で攻撃的になりやすく、それが物盗られ妄想として出てくる」(同前)
奥野氏は「家族が手に負えないと感じる暴言や暴力などの周辺症状も、実際は中核症状の記憶障害による人間関係のズレなどから生まれるもの」と指摘する。
「中核症状と違って、周辺症状は周囲の接し方によって抑えることができます」(同前)
多くの識者や認知症患者本人への取材から得た対処法を、奥野氏はこう語る。
周辺症状を減らす方法
「周辺症状が出た高齢者には、『否定しない』、『怒らない』、『感謝する』の3つを心がけることがよいと思います。高橋医師は認知症の人の気持ちを逆撫でするような、『しっかりしてよ』といった励ましをできるだけ減らす方がよいと教えてくれました。また、『違うでしょ』と否定するのでなく『そうだね』とニコニコ笑いかけてから、『こういうのはどうかな』と提案することが大事だといいます。さらに、『ありがとう』と感謝の意を示す回数を増やせば、徘徊、暴言、暴力といった周辺症状は自然と減っていく。認知症の人は『自分で料理を作った』、『買い物に出かけた』など、悪意なく作り話をしてしまうケースも多いのですが、頭ごなしに否定するのではなく、話を合わせてあげるのも良いことです」