海外作品への出演も多く、韓国でも映画『哭声(コクソン)』『犯罪都市 NO WAY OUT』に出演した俳優の國村隼さん。俳優の視点から見ての韓国映画の魅力を語った。
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“人たらし”全斗煥を演じた俳優
韓国映画に対する認識が大きく変わったのはカン・ジェギュ監督のスパイアクション『シュリ』(1999年)ですね。いま観ても25年前の作品とはとても思えないクオリティです。何より戦闘シーンが物凄い。射撃の芝居がリアルで驚いたのですが、考えてみたら、彼らは徴兵制の国で生きているから役者はほぼ戦闘訓練を受けているわけ。そこは良くも悪くも日本人俳優と違う。南北分断という現実世界の国家的トラウマをここまで迫力のあるエンタメに仕上げたのも衝撃でした。
同じ観点で言うと、今年公開された『ソウルの春』は、1979年の韓国大統領の暗殺から始まって、全斗煥ら軍人たちによるクーデターが起きるまで実際の事件を基にしたものですが、いま日本で同じような題材がもしあったとして、あそこまで凄みのあるものを作れるかなと。
僕はどうしても全斗煥を演じたファン・ジョンミンが気になって仕方ありませんでした。『哭声』で共演した時にも感じましたが、どこまでもすごい役者です。役者にとっては実在の人物を演じるのは一番嫌なんですよ。その人を知っている人はいっぱい居るわけで、妄想を膨らませて勝手に作り上げていい役じゃない。ファン・ジョンミンはどんなプランで行ったのかなと思って観たのですが、「この人には巻き込まれてしまうよね」という“人たらし”の全斗煥を画の中に存在させていた。彼はおそらく全斗煥という独裁的政治家を肯定しているわけではない。だけど、彼が革命を目指したのはなぜだったのか、なぜ権力を欲したのか、という入口から、彼なりの答えを出しているから説得力があるんです。