ゾンビ映画に見る「人間の業」
彼はソウル芸術大学の演劇科を卒業して舞台で経験を積んだ超エリートながら「40歳まで役者一本では食えなかった」と言っていました。韓国では、彼のように専門の教育を受け、舞台で鍛えられた人が多く、プリミティブな表現から脚本を読み下す力まで、スキルがとても高いですね。『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)も大好きな映画ですが、主演のコン・ユもやはり演劇教育を受けています。これも単なるゾンビ映画ではなく、人間の業を生々しく描いている作品です。最後に子供がアロハオエを歌うんですけど、その音楽の使い方がうまくて、ヨン・サンホ監督のセンスの高さを隅々に感じました。
俳優だけでなく才能ある監督や脚本家やスタッフが生まれてくるのは国としてエンターテインメントに力を入れ教育に投資しているのも大きいようですね。『シュリ』のカン・ジェギュ監督と対談したとき、「僕らは旧来のシステムを見直し、現場にちゃんとギャランティが還元されるシステムを一から作りあげた」と言っていました。その追い風になったのが、金大中大統領の時代に「エンタメで外貨を獲得する」という政策を国として打ち出したこと。演劇教育の普及もしかりですが、映画や音楽など韓国発のコンテンツがレベルアップして、グローバルに認められ、それに携わっている人間が俳優からスタッフに至るまで、きちんと生活していけるだけのギャランティや休暇など、現場での労働条件が揃いつつあるそうです。ここも日本は遅れをとっているところですね。
一方、たたき上げからスターも生まれていますし、ハンサムな俳優だけでなく、ジャガイモみたいにゴツゴツした実力派俳優が多くて、〈国民的アイドル〉としてとても愛されています。マ・ドンソクはその代表格。彼の『犯罪都市』(2017年)のシリーズには縁があって私もカメオ出演していますが、このシリーズはヴィラン(悪役)もいい。衝撃だったのは2022年の第2作のソン・ソック。僕はああいう役者を初めて見た。
本記事の全文は、「文藝春秋」2024年12月号と「文藝春秋 電子版」に掲載されています(國村隼「韓国映画 個性派俳優の至芸を楽しむ」)。
全文では、國村さんが『哭声(コクソン)』に出演した際のエピソード、監督であるナ・ホンジン氏の演出術、ポン・ジュノ作品の魅力、一押しの女優などについて語っています。
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2024年11月9日 発売
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