業界の常識の延長戦上で考えるな
旧来からの利害関係にどっぷりと浸かった組織を変革することは容易ではない。その分厚い壁を打ち崩すには「非連続が大切だ」と池田氏は言う。
「私は野球界とはまったく無縁のキャリアから球団社長になって、現場介入もしたし、横浜スタジアムのTOBも成功させた。それまでは不可能だ、タブーだとされてきたことをどんどんやったんです。業界の常識の延長線上で考えるのではなく、非連続だったからこそできたのだと思います。
特にスポーツは夢を描くことが大切。外の世界からの視点で『ここまでやればみんなが夢を持てるな』というラインを最初に思い描いて、あとはそこまでのプロセスを高いクオリティで積み上げていく。既存の利害関係がないからゴールまで突き進めるし、そこまで行って初めて非連続が起こる。利害関係がある業界関係者には思い描けない絵を実現できるんです」
元選手が運営にまわるのはよくない、という風潮への疑問
NSBCでは、非連続を起こしてくれそうな人物との出会いもあった。オーナーという立場から新日本プロレスに関わっていくことを選んだ木谷高明氏や、30代の若さで日本フェンシング協会の会長に就任した太田雄貴氏、同じく引退後まもなく全日本スキー連盟の要職に就きさまざまな改革に積極的に取り組んでいる皆川賢太郎氏、柔道全日本男子監督として日本柔道の復権を推し進めてきた井上康生氏といった面々だ。
利害関係者の存在を問題点として指摘しながらも、希望を感じさせてくれる人材として競技経験者の名前が多く挙がるところが興味深い。
その点について、池田氏はこう説明する。
「競技あがりの人(=元選手)が協会に入って運営する側にまわるのはよくないという声がありますが、それはちょっと違うかなと。彼らは若いこともあって、業界の利害関係にがんじがらめにされていないし、すごく自由な発想からスタートできる強みがある。選手の強化やトレーニングに対する考え方も、かつてのような根性論ではなく、科学的な視点を持っています。現に結果も出してきていますよね」
“非連続”を起こすのはどのような人物か
彼らのような非連続な存在には共通点がある、と池田氏は見ている。
「想像力と推進力を掛け合わせた人。この両方の要素を持ち合わせていないと非連続を起こすのは難しい。たとえばスティーブ・ジョブズがそうだったと思うんです。新しい視点でものづくりに挑んで、アップルという大企業をつくり上げた。そうやって組織力を構築できれば、スティーブ・ジョブズがいなくても100点満点中60点ぐらいの製品を世に送り出し続けることはできるでしょう。
でも、それもこの先ずっと成功するとは限らない。絶えず変わっていく世の中で、人の心を惹きつけられる商品を生み出すには、またどこかで非連続を起こす必要があるのだと思います」
夢を描き、それを実現できる人。非連続の起点となりうる人。しがらみなく改革へと突き進む彼らこそ、岐路に立つ日本スポーツ界の希望の光と言えるのかもしれない。
INFORMATION
「Number Sports Business College」とは
横浜DeNAベイスターズ前球団社長で、現在はスポーツ庁参与、明治大学学長特任補佐など多方面で活躍する池田純氏が昨年4月に開講。
各競技団体やスポーツビジネスの世界で活躍している方を講師として招き、受講者を交えたディスカッションによりスポーツ経営人材の輩出を目指します。
今後の予定は6月14日の第5回に藁科義弘氏(川崎フロンターレ代表取締役社長)、6月27日の第6回に桑田真澄氏(元プロ野球選手)など豪華講師を招き、最前線の講義を展開します! 詳細、受講申込は下記リンクから。
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