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「丁寧な民主主義を取り戻す」

 臨時国会が召集された日、朝日新聞は1面トップで『窮地の首相 行き着いた「熟議」』(11月29日付)と特集した。

 首相は本来は政治決定に絶大な権力を有する。とくに第2次安倍政権は「官邸1強」と言われた。しかし衆院選の大敗で状況は一変した。

《もともと党内非主流派出身の石破には「強すぎる官邸」こそが党内の自由な論議を封じ、官僚らの間で忖度を蔓延させるなど、日本の民主主義をゆがめてきたという問題意識があった。》

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石破茂首相 ©時事通信社

 それゆえ、「乱暴な政権運営はできない。それを逆手に、丁寧な民主主義を取り戻す機会にしたい」と石破首相は周囲に語ったというのだ。決して望んだ状況ではないが、首相周辺は「短命政権でもいい。『安倍路線』からの切り替えを果たし、今までと違うレールを敷くことに存在意義を見いだすしかない」と述べている。

 思わず笑いそうになったのは、石破首相が模索する新しい政治の意思決定システムだ。第1段階が政策協議、第2段階が国会論戦とあった。批判的な野党とも丁寧に議論を重ね、合意を得る努力をするという。そんなの当たり前じゃないかと思うが、これは石破首相の安倍政治に対する最後で最大のアンチテーゼになるのだろうか。

 朝日の特集からは石破首相に対する最低限の期待のようなものが感じられた。その日におこなわれた所信表明演説でも「他党の意見を聞く」と述べた。

長年石破氏を取材するジャーナリストは…

 しかし石破首相にこんな「改革」が本当にできるのか? ジャーナリストの鈴木哲夫氏に聞いてみた。鈴木氏は長い間石破氏に取材をしており、著書に『石破茂の「頭の中」』がある。石破取材の第一人者と言っていい。

――石破氏は窮地を逆手にとって「丁寧な民主主義を目指す」と朝日が報じていましたが。

「石破さんは自分が意図してないのに『結果的にこうなっている』ということが多い。衆院選での裏金議員処分も安倍派潰しだという声もあったけどそんな芸当はできない人ですよ。結果的にそうなってるだけ。今回も少数与党という立場は石破首相にとってキツいだけ。結果論として野党と丁寧に話をしなくてはいけないということです」