尹大統領が危険視していたもの
尹大統領は3日の非常戒厳令を知らせる対国民談話で、「国会が政権発足後、22件の政府官僚弾劾訴追を発議した」「判事を脅かし、多数の検事を弾劾するなど司法業務を麻痺させ、行安部長官弾劾、放通委員長弾劾、監査院長弾劾、国防長官弾劾の試みなどで行政府まで麻痺させている」と弾劾を乱発する『民主党』の横暴について言及していた。
政府閣僚に対する弾劾は在籍議員の過半数の同意さえあれば可能であり、弾劾された閣僚は憲法裁判所の判決が下されるまで数ヶ月間業務が中断されるが、『民主党』がこれを狙って政権を攻撃する手段として弾劾を乱発していると尹大統領は認識しているのだ。ちなみに戒厳令宣布から間もない5日にも『民主党』は、ここぞとばかりに、ソウル中央地検長をはじめとする検事3人と監査院長に対する弾劾案を国会で通過させるなどし、力を誇示している。
韓国メディアの反応は「尹大統領の自業自得」「民主主義を破壊した」
しかし、「野党の弾劾乱発は、武力で国民の自由を抑圧する非常戒厳令の理由にはならない」というのが韓国メディアの共通した認識だ。韓国の大手紙は、国政指導者としての尹大統領の感情の調節や判断力に対して大きな疑念を示している。社説には以下のような文言が並ぶ。
「尹大統領が国民の前に出て一連の事態について釈明し、どのように責任を負うのかを明らかにしなければならない」(朝鮮日報)
「大統領弾劾案は尹大統領の自業自得だ」(中央日報)
「国会は反憲法的暴挙を起こした尹大統領を弾劾し、憲政秩序を立て直すべきだ」(ハンギョレ)
「独裁的発想で憲政秩序と民主主義を破壊した尹大統領は直ちに大統領職から降りなければならない」(京郷新聞)
「国民の前で謝罪し、国民の意思を厳重に尊重して収拾するという決断が伴わなければならない」(ソウル新聞)
「弾劾政局通過を待つには時間がない。(自ら辞任という)尹大統領の決断が求められる」(韓国日報)
失敗した戒厳令によって『民主党』との対立がさらに深まった状態で、国民からも完全に背を向けられた政権はもう国政運営が不可能なだけに、自ら進退を考えなければならない――そうした論調が主となっている。
2016年12月に国会を通過した朴元大統領に対する弾劾案は、憲法裁判所で受け入れられるまでに3ヶ月以上がかかった。それまで、ろうそくを手にした人々が「朴槿恵弾劾」を叫ぶデモが毎晩行われ、社会は極度に混乱した。この8年前の弾劾ドラマが、これからソウルでしばらく再現されるものと見られる。