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 保阪 楽観ムードの日本軍に対して、本土を奇襲された米軍は、すぐに国をあげて総力戦体制に移行します。結果、1942年6月のミッドウェー海戦の大敗北から、一転して日本は追い込まれていきます。

真珠湾攻撃で炎上する米戦艦 Ⓒ時事通信社

 新浪 私はEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)による政策決定の必要性を訴えています。経験や直感だけでなく、データや合理的根拠をもとに、政策を立案することです。パールハーバーについても達成すべきミッション、そのために必要なことは何だったのか、客観的な検証が必要です。

 保阪 アメリカは戦後も真珠湾攻撃の研究を続けています。あるときアメリカ人研究者に、なぜそんなに真珠湾攻撃を調べているのか尋ねたことがあります。すると彼は、「真珠湾攻撃は20世紀における奇襲攻撃の典型的なケースである。いまもアメリカはいつ奇襲を受けるかわからない。だから世代を超えて、あらゆる観点から調査する必要がある」と教えてくれました。

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 一方の日本では、真珠湾攻撃について、世代を超えて研究を続けているでしょうか。もちろん、なぜアメリカへの最後通牒の手交が遅れたのかなど、各事象を分析したものはありますが、きちんと総括した研究がほとんどないのが現実です。

検証をしない国民性

 新浪 私も常々、それを疑問に思っていました。ミッドウェー海戦、ガダルカナル作戦、レイテ沖海戦などの敗因を分析したものはありますが、真珠湾攻撃の成否を分析したものは少なかった。当時の世界情勢を大局的にとらえ、時代の流れの中で日本がどのような立場に立ち、どのような判断を下したのか。まさに、現在の地政学や経済安全保障に通じるものがあると思います。

零戦も真珠湾攻撃で活躍した Ⓒ時事通信社

 保阪 トランプは今でも、「リメンバー・パールハーバー」と言います。個人的には冗談じゃないよと思いますが、日本人は対外的に自分たちの考えを伝えてこなかった。真珠湾攻撃から、すでに83年。これだけの時が過ぎれば、史実はほぼ出尽くしています。にもかかわらず、私たち自身が真珠湾攻撃をどう捉えるべきか、論じてこなかった。

 新浪 そもそも日本人は検証が苦手な国民性ですよね。それは検証をすると、誰かの責任追及になるからです。情緒的な仲間意識の中で、誰も傷つけたくないという意識が働いてしまう。責任追及ではなく、事実の検証が重要なのに、それがなかなか実行できない。検証なしに、進歩はありません。